第61章 アナタが笑顔なら 後編
「……っ」
「頼むから、紫苑にあんまりキツイこと言わないでくれよ」
阿近はため息混じりで言いながら、煙管を取り出して連絡先の一覧から目的の人を探した
「紫苑は昔から精神的に弱くて、それですぐ身体壊すからさ」
「…良く、知ってるんですね」
西園寺さんの前では吸わないくせに…
「まぁな」
「好き…なんですよね?西園寺さんのこと」
手を少し止めて、座り込んだ女を見下ろす
「好きだよ」
「…西園寺さんは、浦原さんしか見てないですよ」
「知ってるよ」
「いいんですか?それで?そんなの、阿近さんが不憫です!」
阿近は今度は大きく息を吐いて女の前にしゃがみこんだ
「俺が紫苑を好きなことで、お前に迷惑かけたか?」
滅多に怒らない阿近さんの目が、その時は本当に怖かった
「紫苑は脆いから…支えが必要なんだよ」
そして急に少し優しい目になって、西園寺さんの名前を口にするんだ
「それに俺の気持ちはもう、伝えてあるしな」
そっか
伝えてあるんだ…
「俺のことならなんとでも言っていいけど、頼むから紫苑には余計なこと言うな。あ、浦原さん?」
また怖い目になって、阿近さんは離れていった
「だって…ずるいじゃないですか…」
私だって別に強いわけじゃないのに
そして、私の目からは涙が流れていた
…─
「紫苑」
優しい、けれど少し心配そうな声
「紫苑…」
これで起きなかったら、起こすのは止めよう
そう思った矢先、重そうに目が開いた
「喜助さん…」
「体調はどうっスか?」
貧血のせいだろうか、少し顔が白い
頭を撫でる手を止めて、今度は細い手を軽く握った
「お腹痛い…」
「薬は?持ってる?」
力なく首を横にふる
「作ってくるから、もう少し待ってられる?」
今度は首を縦にふり、名残惜しく指先を絡めて見送った
喜助が部屋から出ると、電話をくれた人物にあった
「さすが、早いな」
「飛んできましたよ。連絡ありがとうございました」
現世から此方に来るにはどう頑張ったって、それなりの時間はかかる
けど、この人にはきっと通用しないんだろうな