第61章 アナタが笑顔なら 後編
平気と言ったばかりなのに、下腹部に痛みを覚える…
薬飲み忘れたからかな
勇音さんに貰ってくればよかった
「…あの…」
阿近が出ていったすぐあとに、不意に声をかけられた
「あなたは…?」
癖っ毛の肩までの茶色い髪
ルキアちゃんと同じくらいの背かな
可愛らしい顔立ち
だけど、少しだけ…何か尖ったものを感じる
「ただの局員です」
部屋に完全に入ると、彼女は扉を閉めた
「私は…」
「西園寺さん…ですよね」
「え、うん…」
「あの、実験の道具取りにきたんです。いいですか?」
「…どうぞ」
手際良く準備を進める彼女は、ずっと何か言いたげなのか、うずうずしているようにも見える
そしてチラチラと此方を見てくる
「あの、何か?」
「私、前から西園寺さんに聞きたいことがあって…」
水を汲んでいた彼女の手が止まった
溢れそうになるところで、蛇口を止める
「…単刀直入に聞いてもいいですか?」
「…何?」
彼女はこっちを見ずに、手元のビーカーに入った水を見つめながら言った
「阿近さんのこと、好きなんですか?」
「へ?」
予想もしない質問だった
まさか阿近の名前が出てくるとは思わなかった
「阿近さんは、西園寺さんのことが好きです…多分」
彼女は水の入ったビーカーを持ったまま、流しの底に置いた
「阿近さんと、時々話している西園寺さんを見ると、もしかしたら西園寺さんも阿近さんを好きなのかなって」
「あの、私…」
「だけど、西園寺さんには浦原さんがいますよね?」
この子、もしかして…阿近のこと
「西園寺さんが本当に好きなのは…誰ですか?」
ビーカーを持つ手に力が入っている
嫌な予感が、しなくもない
「あの…座って話さない?」
「それともあんな思わせ振りな態度しておいて、好きじゃないとか言うんですか?浦原さんがいるんですよね?なのに…なのに…阿近さんにも甘えるなんて…ずるくないですか?阿近さんの優しさを、利用してるんですか?」
胸が苦しくなった
「…私、阿近さんのことが好きなんです。西園寺さんは、阿近さんと浦原さん、本当はどっちが好きなんですか?」
数秒の沈黙
「正直に言って欲しいです…」