第61章 アナタが笑顔なら 後編
「顔の傷…大丈夫か?」
「うん、眼球じゃなくて良かったよ」
「でも、痛むだろ…」
阿近の優しい手が、そっとガーゼに触れる
「…ちょっとはね」
「早く治るといいな」
紫苑から手を離して、阿近は作業の続きを再開した
「ねぇ、蛆虫の巣ってどんなところ?」
「…なんだよ、突然」
阿近も、というより技局の半分くらいは蛆虫の巣出身だと聞く
なんでも喜助さんが隊長になったとき、才能ある人材を引き抜いたんだとか
マユリさんもその1人
今はマユリさんの気分次第らしいけど
「ん、ちょっとね」
「そういうことは、浦原さんに聞きゃいいだろ」
「なんとなく、聞きづらいし…心配しなくて良いって、本当のこと教えてくれなそうだから」
脱獄者のことか…?
紫苑に危害を加えたっていう
…あの人は管理者だったわけだし、収監されてる側とはきっと感じ方は違うんだろう
「そんなに悪いところじゃねぇよ」
「そうなの?」
「隊長は檻に入れられてたけど、それ以外の奴らは特に行動は制限されてなかったし、食料とかもそれなりに支給される。まぁ娯楽はあんまり無いけどな」
「一生そこに居るとしても?」
「そもそも出れるなんて思ってなかったしな。その点では、浦原さんには感謝してる。紫苑に会えたしな」
「そっか…」
ちょっと安心した
もしかしたら、酷い拷問にあったりするんじゃないかってイメージだったから
でもあの人は戻りたくないって言ってた
そりゃやっぱり外のほうが良いよね
今回のことで隠密機動の監視が強化されて、万が一マユリさんに拾われることも無くなるんだろうか
それとも仮にあの人が檻に収監されたとしても、マユリさんのように出てこれる可能性が…?
嫌、あの人にマユリさんのような頭脳とかがあるとは、正直思えないし、砕蜂さんはもう出てくることはないって
「あんまり考えすぎるなよ」
「…私、考えてた?」
「大分な」
「…やっぱり阿近と話してると、気が楽になる。ありがと」
阿近は返事の変わりに小さく笑った
「俺ちょっと資料取ってくるから、此処で休んでろよ」
「もう平気」
「ばーか、いつから紫苑のこと見てると思ってるんだよ」