第61章 アナタが笑顔なら 後編
喜助さんの手を握ると、自然と涙がこぼれ落ちる
幻覚なんかじゃない
私の大好きな、喜助さんだ
「…っ…ひっ…」
喜助さん、喜助さん喜助さん…っ
「…泣いてるんスか?」
微かに聞こえた小さな声
「…喜助…さん?」
「泣かないで…紫苑」
「喜助さん…ごめん…ごめんね」
私に気を使って離れようとする手を強く握った
「いいんスか…ボクは汚いっスよ…こんな手で、紫苑に触れちゃあいけなかった…」
「もういい…もういいの…」
「紫苑…」
「喜助さんのこと、信じてるから…っ」
あぁもう、また涙が溢れる
泣き虫はどうしてこうも、なおらないんだろう
「きゃっ」
次の瞬間には、喜助さんの布団に引きずりこまれていた
「紫苑ごめんね…」
「…ううん」
「ボクは紫苑が居ないとダメなんス…だから、もう…ボクから離れないで…」
私を抱き締める腕がいつもと違った
私を求める身体がいつもと違った
震える身体はなんかちょっと違って…
「喜助さん痩せた…?」
「……」
言葉を詰まらせて、紫苑に顔を埋めた
「喜助さん?」
「言ったでしょ…ボクは、紫苑が居ないとダメなんだって…そんなことも分からないんスか…」
消えそうな小さな声
喜助さんが、こんなに弱っているのを目の当たりにするのは、初めてだった
「一緒に居てくれる…?こんなボクだけど」
「一緒に居るよ…ずっと」
「うん…」
安心したように、紫苑を抱き締め直して眠りに落ちた
…─
「おはよぉ…真子」
「ん~早いやんけ…まだ寝とっても…」
浦原商店の一室で、朝を迎えた平子は立ち上がる琴乃を引き留めた
「でも紫苑と浦原さんの様子気になるから…」
と、軽く身なりを整えて部屋を出ようとする姿を見て
「待ちィ。俺も行くわ」
と、琴乃のあとに続いた
昨日喜助を寝かせた部屋をそっと開けた
「ほらね、大丈夫だったでしょ?」
「せやな」
布団には抱き合って、肌を寄せ合って眠る2人の姿があった