第61章 アナタが笑顔なら 後編
紫苑は自ら、喜助に抱きついた
自身を安心させるように、喜助の胸の音を聞いた
「怖かったっスね…もう、大丈夫だから」
強く泣き出した紫苑を、喜助は優しく包み込んだ
「…私も戻るとするか」
邪魔をしないように、砕蜂は静かに部屋を去った
…─
「スミマセン、虎徹サン。また来てもらっちゃって」
「少し、危険な状態でしたが大丈夫ですよ。ほんと、忙しい人なんだから…」
「ありがとうございました」
「また何かあったら、いつでも呼んでくださいね」
きっと紫苑と話したいだろうに
元気になったら、会いに行こうか
喜助は紫苑の隣に座り、手を握った
頬には大きなガーゼが痛々しい…
もっと早く、気づいて駆けつけていれば…
こんなに怖い思いをさせずに済んだのに
「ごめんね…」
やっと虚を浄化できたのに…
「喜助様…」
「雪姫サン」
心配そうに紫苑を覗き込む
「もしかして雪姫サンが言っていた心配なことって…」
「はい…でも、解決されたのでしょう?」
喜助は紫苑からそっと手を離して、下を向いた
「まだ、話せてないんス…。分かってくれると、良いんスけど…」
本当は、もっと早く…話すべきだったのかもしれない
そうすれば、こんなに紫苑を混乱させることも、なかったかもしれない…
頭を抱える喜助
こんなに辛そうな喜助を見るのは、雪姫は初めてだった
「すみません…紫苑をお願いします…っ」
言い切らないうちに部屋を出て、階段を駆け降り、流しに向かった
「喜助様…」
…─
「お邪魔しまーす…」
昼間でも薄暗い店内
臨時休業の紙が貼られたままの店
きっと店主が連絡するまでは、店の面子も帰って来んのやろやな…
「2人ともいないのかな?真子」
「今この状況で、紫苑1人残してどっか行かんやろうけど…」
裏の勝手口から預けられている鍵を使って中に入る
ドアを開けて靴を脱いで台所に上がると、すぐに人影が見えた