第61章 アナタが笑顔なら 後編
「何それ、修羅場じゃん!」
仮面のアジトに帰ると、夜飯を作り終えた琴乃が調理器具の洗い物をしていた
「お前なんや面白そうやんけ…」
ことの次第を話すと、琴乃は声のトーンを上げて答えた
「あの2人の修羅場は何度か見てきたけどさ、そこまでしつこい女初めてだよ。沙也加さん以上かも」
「…喜助がエライ病んどるで」
「まぁでも、大丈夫でしょ、あの2人なら」
「そらそーやとは、思うけどなァ…」
あとは喜助がちゃんと、紫苑に話して分かって貰えればええんやけど…
…─
「さぁてと、そろそろ殺しちゃおうかなぁ」
月が輝く夜
電柱の上に立つ女は、商店の2階部分から感じる霊圧に狙いを定めていた
「ほんと、ムカつく女…」
そっと屋根に降り立ち、少し小さな窓の鍵を壊した
ゆっくりと窓を開けると足音を立てないように、中へ入った
そして紫苑に跨がると、躊躇もせず短刀を振り上げた
…─
身体が重い…
熱のせいだろうか
お腹が痛い…
呼吸がしにくい
うっすら目を開けると、ギラリと光る短刀が自分目掛けて振り下ろされる瞬間だった
「あら残念、反応の良い女…」
間一髪避けたものの、紫苑の頬に大きな傷をつくった
振り下ろされた短刀は紫苑の顔の横の枕に突き刺さった
「あな…た…っ……麻美さんっ!?」
彼女は再び躊躇なく短刀を振り上げた
殺される…っ
紫苑は動かない身体にムチを打ち、女の身体を突き飛ばした
「ったぁ…」
「なん…で、こんな…」
「…あなたが死ねば、喜助は私のものになるの」
彼女は立ち上がり、紫苑に距離を詰めてくる
高熱で視界がぼんやりする
後退りも限界で部屋の壁に背がつく
「ねぇ、お願い。死んで?」
顔に向けられた切先は、抵抗した紫苑の肩を刺した
「っ…あぁっ…!」
恐怖で足がすくむ
ここまでの憎悪を向けられたことはない
「髪も伸びた…声や仕草だって、あなたに似せた…なのになんで、喜助は私を愛してくれないの?こんなに愛しているのに…」