第61章 アナタが笑顔なら 後編
「どうしてこんなこと…」
「私、あのあとすぐ蛆虫の巣に入れられたの」
「蛆虫の巣に…」
やっぱりあそこでしたか…
「ひどい話よね。喜助への執着心、西園寺さんへの妬みの気持ちが尋常じゃないって理由で、入れられたの」
だから、あんなに殺気だっていた彼女が何もしてこなかった…いや、できなかったのか
「100年くらい居たの。だからほらね、髪も伸びて、西園寺さんに似てきたでしょう?」
嬉しそうに髪を触る彼女に嫌悪感を抱く
少しでも彼女を紫苑だと思った自分が許せない
「だけどいつまでも出れないから、脱獄してきちゃった」
「脱獄…?」
檻理隊は何をしているんだろうか
脱獄なんて、絶対にあっちゃあいけない
だけどあの場所は公にされていないから、脱獄者が出てもそれは二番隊にしか知らされない
「喜助に会いたかったからよ?ねぇ、続きしよ?私を西園寺さんだと思ってくれて良いから」
細い腕を喜助の首にまわした
「ふざけないでくださいよ」
「…まだあの子に気持ちがあるの?…ところで西園寺さんは元気かしら?さっきの様子だと随分会っていないようだけど?別れた?そういえば喜助、なんで現世にいるの?」
「アナタに関係ない。今すぐ隠密機動を呼びますよ?」
「あら、残念」
逃げなきゃ
彼女は赤煙遁を放った
喜助は咄嗟に口元を隠した
「また会いに来るわね」
喜助の頬に口づけをして、彼女は去っていった
「…っ」
まるで汚いものがついたように、頬を拭う喜助
紫苑…ごめん…
罪悪感が胸を締め付けた
…─
「なんや、エライ奴に気に入られたなァ」
「自分の行いを、ここまで後悔したのは初めてっス」
「ちゃんと話せば、紫苑なら分かってくれるやろ」
喜助は黙り込んでしまった
本当は話すのも嫌だ
紫苑にこれ以上嫌われたくない…
拒絶されたくない
汚い自分を、見せたくない
「顔色悪いで。そろそろ休み」
「…紫苑のこと、ありがとうございました…」
平子が店を出た直後
再び喜助の苦しむ声が聞こえた
「重症やな…」