第61章 アナタが笑顔なら 後編
「夜一さん言ってたよ…私以外には目もくれなかったって…あれは嘘?」
凄く困った顔をしていた
真実を言わなければいけないと言う思いと
紫苑を傷つけたくないという思い
「喜助…どうなんや」
喜助が観念したように口を開きかけた時
「もういい…」
「紫苑!」
喜助の沈黙を、肯定と受け取ってしまったんだろう
紫苑は喜助に背中を向けて走り出した
「待って!紫苑!」
紫苑の腕を掴んだ
「離して!」
振り払われた手
泣きそうな瞳
こんな顔、させたかった訳じゃないのに…
「分かるよ。100年も私、居なかったから…別の人に気が向いてしまうのだって、仕方ないってこと。だけど、だけど…胸が苦しいの!」
絞り出された震える声が、ボクの心臓を抉った
「…他の子触った手で、触らないで…」
瞳から涙を1粒こぼして、紫苑は再び背中を向けた
「俺が行くで」
紫苑を追いかける平子を、喜助は黙って見つめるしかなかった
胸が痛い
苦しい
気分が悪い
今度こそ、紫苑に嫌われてしまった
嫌われ…た…
胸が、張り裂けそうだ…
…─
「紫苑!落ち着きィ!」
「はぁ…はぁ…」
声をかけたと同時に紫苑はしゃがみこみ、息を乱した
「そんな状態で走ったら倒れてまうで…っておい!」
そのまま地面に転がるように紫苑は倒れ込んだ
「言わんこっちゃない…」
気づかなかったが額からは大粒の汗
首まわりの火照り…
「熱でとんのとちゃう…?」
頼りのテッサイも臨時休業で店にはいない
平子はある人物に電話をかけた
「もしもし?悪いんやけど、ちょっと頼みが…」