第10章 キスされても知りませんよ
すぐに背中を向け浴衣を眺める
私絶対顔真っ赤だよ…
隊長はなに食わぬ顔で浴衣を選んでいる
余裕だなぁ…やっぱり慣れてるんだろうな
あれ、このお店…
「紫苑サン、これなんかどうですか?」
そこにあったのは白地に薄紫の花があしらわれた浴衣だった
「わぁ、凄く綺麗…」
「着てみてくれますか?」
紫苑は試着室でお店の人に、手伝ってもらいながら浴衣を試着する
試着室といっても、壁があるわけではなく大きな布で仕切られているだけで、外のお店の人と隊長との話し声が聞こえてきて気になってしまう…
「かわいい彼女さんですね」
「そうでしょう。ボクにはもったいないくらい可愛いんスよ」
か、彼女って…
そのほうが話しが合わせやすいんだろうけど、でも、嘘でも嬉しい…
「如何でしょう?」
浴衣を着終わったところで、試着の仕切りの布があげられる
「ど、どうですか?」
「……」
隊長は何も言わない
「どう…ですか?」
「まいったな…こんなに似合うと思わなかったっス」
え?それって…
「可愛いっスよ、紫苑サン」
隊長に名前を呼ばれる度にキュンとする
こんなにかっこよくて、こんなに優しくて…こんな人が恋人だったら…
「せっかくだから他のも着てみますか?」
なんてお店の人の言葉に甘えて、他にも何着か試着する
「紫苑サンはどれがよかったっスか?」
「私は…最初のやつがいいです」
「それ、くださいな」
そういえば値段を見てなかったけど、私の持ち合わせで足りるかな…
財布を出してお勘定の場所へいこうとしたら、そこにもう既に隊長がいた
「いいよ、ボクが出すから」
「だ、だめですこんな高いもの!」
「今日はボクが誘ったんだから」
「じゃ、じゃあせめて半分…」
口を開いていた紫苑の財布をパタンと閉じて、紫苑の目の高さまで腰をさげる
「いいの、ボクが買ってあげたいの」
ほらまた、ドキってしてる
この人は何回私の心踊らせるんだろう
「ありがとうございますっ」
なんとなくこのお店、来たことがあるような…
初めてだと思うんだけどなぁ