第61章 アナタが笑顔なら 後編
「雪姫…ごめん、私……一緒に居るって言ったのに…」
「紫苑様の、そのお気持ちだけで充分ですわ」
そう言う雪姫の目は、珍しく涙ぐんでいた
「気分はどう?」
「悪くないですわ」
良かった
と紫苑は雪姫に笑いかけた
「紫苑、お疲れ様」
「喜助さん…」
心臓がゾワッとする
胃が痛む…
呼吸が荒くなる
「どうしました?大丈夫…?」
抱き締めようとする喜助を、紫苑の左手が止めた
「紫苑…?」
「ごめ…なさい…今、喜助さんの顔…見れない……」
「ど…うして…?」
「ごめ………っ」
どうして?
苦しんでいるのに、抱き締めてあげたいのに
どうしてボクを拒むんスか…?
「お願い、今は…喜助さんの顔…見たくないの…」
過去にも同じようなことを言われたことはある
だけどまた、こんなことを言われる日がくるなんて思っていなかった
思い当たる節がない
精神世界で、虚との闘いで一体何があったのか…
「雪姫サン…紫苑をお願いします…」
「はい…」
部屋を出ていく喜助の背中は、とても寂しそうだった
「紫苑様…」
「分かってる…あれは幻覚だったってこと…だけど…どうしても…頭に浮かぶの…!」
紫苑は頭を抱えて、髪を握りしめた
…─
「珍しいとこに居るなァ」
「平子サン…」
河原の広い芝生
いつから此処に居ただろう…
いつの間にか夕陽が眩しく照りつける
「紫苑は?終わったんか?」
「ハイ…」
「…なんかあったんか?」
そないあからさまに元気あらへんと、さすがに見過ごせんちゅーねん…
「…拒絶されました」
「は?紫苑にか?なんでや…」
「分かりません…」
分からんって…なんやソレ…
平子は喜助の隣にしゃがみこんだ
「きっと、精神世界で何かがあったんだとは思うんスけど…」
「せやったら本人に聞いたらえぇやん」
「無理っス…」
「喜助」
「無理なものは無理っス。これ以上…拒絶の言葉を聞いたら、おかしくなりそうっス…」