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With me

第60章 アナタが笑顔なら 前編



さっきまで暗い顔をしていたというのに、うつむき、微笑んで、幸せそうに指輪を外して眺める紫苑


いい加減俺も、諦めないとな…


「何か言った?」

「…幸せになれよ」


頭を撫でる手が、いつもと少し違った


「ありがとう」


もう完全に、手の届かないところに行っちまうんだ

今くらい、独り占めしても良いよな?浦原さん…


「阿近と話してると、いつも気が楽になるよ」

「そりゃどーも」


紫苑に背を向けながらも、その顔はほんのり綻んでいた


『い~い雰囲気だよなぁ、あの2人』

『お似合いだと思うんだけどなぁ』

『しっ!そんなこと聞かれたら、浦原さんに殺されるぞ』

『浦原さんともお似合いだよねぇ』

『邪魔しないでおこう』


部屋を覗く隊員たち


「で、何に悩んでるって?」


紫苑は記録を取る手を止めて、少し俯いた

そして悩みのタネを話し出した


「なるほどな…」

「なんでだろ。阿近にはなんでも、話せちゃうね」

「話しくらいならいつでも聞いてやるよ」


紫苑はまた、手を動かしはじめた


「お前のしたいようにしたら良いんじゃねぇか」

「私の…?」

「中のモンを追い出したいんならそうすれば良いし、雪姫が苦しんで欲しくないならそのままでいれば良い」

「でも…」

「どんな結果になったって、きっとあの人がどうにかしてくれるさ」

だから、安心して良い


阿近の言葉が、心に染みていく


「私って本当、昔っから面倒臭いよね」


泣きそうな顔

だけどきっと紫苑は、俺の前では泣かない

紫苑の涙を拭ってやれるのは、俺じゃない


「やっぱり帰れ。浦原さんが心配する」

「帰れって…そっちが手伝わせたくせに」


ブツブツと紫苑は文句を言いながらも、記録用紙をまとめはじめる


「じゃあ私行くね」

「紫苑」

「なぁに?」


抱き締められてると理解するのに、時間はかからなかった


「阿…近…」

「お前のこと、好きだった」


初めて、阿近の気持ちをちゃんと聞いた


「初めて会った時から」


初めて、阿近に抱き締められた


「まぁ今でも好きだけどな」


胸が、締め付けられる

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