第60章 アナタが笑顔なら 前編
「確かに三日間雪姫は辛い思いをするかもしれない。でも、その三日で、雪姫は今までの苦しみから完全に解放されるんだよ」
「せやな、琴乃の言う通りや」
「紫苑、ウチらは確かに中の虚抑えて今は普通にしとるけど…」
「中のモン完全に消せる方法があんのは、幸せなことやで…」
その時、ハッとした
みんなは、好きで虚化を会得した訳じゃないんだ
そんなみんなの前で私は…
「ごめ…っなさ……」
ポロポロと泣き出した紫苑を、琴乃は喜助に渡した
「大丈夫っスよ…」
「リサ、ひよ里。紫苑泣かせんなや」
「そんなつもりじゃ…ごめんな紫苑」
「あんまり、気にせんといてや…」
2人が謝ることじゃない
と紫苑は首を振った
「ゆっくり、考えましょ?」
「うん…」
紫苑は喜助とアジトを後にした
「紫苑大丈夫かな…」
「大丈夫や。喜助がついてる」
「そうだね…」
…─
「一緒に来てくれてありがとう…」
「急いで答えを出さなくて、良いんスよ?」
「うん、もう少し考えてみる」
その日、いつもより体を寄せ合って眠った
色々と不安なんだろう
安心させるように、紫苑の体を包み込んだ
…─
「ー以上です」
「ご苦労」
十二番隊への定期報告業務を終えると、紫苑は隊舎の出口に向かった
「紫苑」
振り返ると
「阿近」
すると阿近は両手で紫苑の顔を包み込んだ
「お前、顔色悪いぞ」
「そ、そうかな……ちょっ」
ほっぺたをふにっとやられる
「また悩み事か」
「なんでもお見通しなんだから」
「分かりやすいんだよ。暇ならちょっと手伝え」
と、紫苑の手を取って歩きだす
「ちょ、私行きたいところが…」
…まぁいっか
1人で考えたいような、考えたくないような、そんな気分だったから
「これがこの薬品で、あっちが…」
阿近の研究の、記録取りを任された
薬品も近くにあるから、指輪は外したほうが良いよね…
「それ、浦原さんに?」
紫苑の指輪が目に入った阿近は胸の奥がチクりとするのを感じた
「あ、うん…」