第60章 アナタが笑顔なら 前編
「遥様の霊力を吸収した虚を取り込んだのですが、私は浄化させることができませんでしたの。紫苑様が私に触れるその日まで、私はまるで闇の中に居るようでしたわ…」
「辛かったんスね」
「そんな思いをもうさせたくない。そもそも卍解は私に負担がかかりすぎると。私に紫苑様の斬魄刀になってほしいと頼みに来た時に、卍解を教えないでほしいと言われたのですわ」
雪姫にとって闇のような中に居ることは、どれだけ苦しかっただろう
逃げたくても逃げられない
嫌いな世界で…
「その卍解で、紫苑の中の虚を取り込んで浄化する…そういうことっスね?」
「はい。紫苑様が私に触れた時、遥様の霊力は霧散してしまったので、中に居るのは虚だけですわ。だから…」
「少し、考えさせてもらって良いかな…」
「え?」
紫苑ならきっと、すぐにでもやろう!と言い出すと思ったのに
考えたいという紫苑に凄く驚いた
「今日は此処までにしよう。雪姫、話してくれてありがとう」
「いえ…」
雪姫は刀の中に戻り、紫苑は商店に上がり、部屋に籠った
2階に上がる紫苑をボクは、見つめていた
「喜助、どこに居ったんじゃ?戸締まりもせんと」
「あぁ、スミマセン…」
いつの間にかフラりと帰ってきていた夜一サンに言われて初めて、戸締まりを疎かにしたことを思い出した
「紫苑は?」
「ちょっと、1人になりたいみたいっス」
きっと三日三晩とはいえ、また雪姫サンに辛い思いをさせるのが嫌なんだろう
もちろん、今の状態のままが良いとも言えない
何か、ボクにできることは…
紫苑は夕飯の時間になっても降りてこなくて、様子を見に行ったら卓袱台に突っ伏して寝息をたてていた
「全く…風邪、引きますよ」
静かに布団に移動させると、もぞもぞと何度か動いて落ち着いた
掛け布団をかけて、ボクはまた下に降りた
…─
「おはよう」
朝に弱い紫苑が、珍しく先に起きていた
「おはよ…」
あの、紫苑…
そう言いかけた口を閉じた