第60章 アナタが笑顔なら 前編
「黒い、薔薇?」
初めて聞く言葉に、喜助は不思議な顔をする
「…はい。あれは、紫苑様の中の虚ですわ」
「やっぱり…」
「元々は、もっと禍々しく醜いモノでしたの」
「分かるよ。貴女は、美しいものが好きだもんね」
「…菫様と居た時は、虚と遥様の霊力が混ざり合って、大きくてどうしようもできなくて、とても苦しかったですわ…」
雪姫の切ない表情が、当時を物語る
今でこそ、黒い薔薇の姿に変えた虚を、美しくないわけではないが心から受け入れることはできないんだろう
「喜助さん、私の中の虚は…どうしても消せない?」
「そうっスねぇ…」
顎に手を置く
考え事をするときの癖だ
「例えば、黒薔薇の封印を解いて、お母様みたいに私に何か鬼道を打ち込めば…出てくるんじゃ?」
鬼道のどれかが効いたなら、何かしら弱点があるはず…
「そんなことして、失敗したらどうするんです?紫苑に傷がつくだけっス。それにアナタは身体が弱い…賛成できません」
「でも、それで虚が出てきさえすれば…喜助さんは工藤さんのときもあの虚を倒してくれたし……」
ぁ…
出てきた虚を、誰が倒すというのか
喜助さんは強いし、きっと確実に虚を仕留めてくれるだろう…
だけど
苦い顔をする喜助から目をそらして
「ごめん…私また、喜助さんに頼ろうとしちゃった…」
紫苑は拳を握りしめた
「頼っても良いんスよ。けど、やり方は考えましょうね」
「はい…」
これは私の問題だ
そして家族の敵でもある
やっぱり自分の手で…
「方法はありますわ」
「え?」
紫苑と同じくらい喜助も驚いた
そしてハッとした
もしかして…
「卍解…っスか?」
「…その通りですわ」
「そう!卍解!お母様が使っていた卍解ってなに?」
雪姫は観念したように話始めた
「紫苑様には、絶対に教えないで欲しいと…菫様と遥様から言われていましたの」
「どういうことっスか?」
「もうひとつの卍解 霖雨蒼生とは、一旦虚や対象を私の中に封印して、私の中で三日三晩かけて癒しの雨を降らせますの。そして少しずつ、後に完全に浄化させるものですわ」
「どうして教えてくれなかったの?」