第60章 アナタが笑顔なら 前編
「私がお話できるのは此処までですわ」
いつの間にか、涙が溢れていた
いつの間にか、喜助さんが肩を抱いてくれていた
お母様とお父様の想いが、伝わってきて、胸が苦しい
「泣いていい…いくらでも泣いていいんスよ。紫苑」
喜助さんの胸に顔を埋めた
言葉にならない気持ちが溢れてくる
会いたい…みんなに会いたい…
「それで、雪姫サンの話によると、紫苑の中にはまだ虚が…?」
紫苑を優しく抱き締めて、頭を撫でながら雪姫に質問する
「はい。私の力で工藤様のようにはならずに済んでいます」
「もしかして、紫苑が悪い夢を良く見てたのも…」
「恐らくは、紫苑様の中にいる虚の影響ですわ」
ひとしきり泣いた紫苑は、呼吸を整え、喜助の胸を離れて雪姫に向き直った
「私の中の虚って、やっぱり、どうにかしなきゃいけないんだよね…?」
「そうですわね…私の力でいつまで抑えていられるか…」
「虚の力が増大する可能性も、無くは無いっスね」
もし、虚の力が大きくなったらわたしは…工藤さんのようになってしまうのかな…
「平子隊長たちは、どうしたの?同じく、中に虚がいるんだよね?」
「そもそも虚化が進行すると、自滅してしまう魂魄自殺という状態になってしまいます。100年前に、流魂街で死神たちが死覇装や草履だけを残して消滅したのを覚えていますか?」
「そんなことあったような…」
喜助は昔を思い出すように、優しく笑うと紫苑の頭にポンと手をのせた
「まぁ、あの頃紫苑はボクが居なくなってしまうかもって、不安に心が支配されてましたからね…」
もう1人は、過去を思い出して喜助に鋭い視線を向けた
「それを防ぐ方法はあります」
「うん」
「だけどそれで防げるのは魂魄自殺だけっス。平子サンたちは更に、内在闘争で内なる虚を制圧して、同調させることによって虚化をコントロールしています」
内在闘争…?ということは、精神世界のこと?
「ねぇ、雪姫…もしかしてあの黒い薔薇って…」