第60章 アナタが笑顔なら 前編
「元々は私のだったんだけど、私はもう引退したから」
この斬魄刀は、呪われた斬魄刀と言われていた
清めようとやってくる術師を何人も傷つけてきたらしい
「大丈夫だから、触ってみて」
幼い頃触ってどうなったか、記憶にない
なんともなかった、としか言われなかった
恐る恐る紫苑は手を伸ばした
キィンと鳴る金属音
手に吸い付くような感覚
気が遠退く
目を開けると美しい花が咲き誇る空間だった
「ここは…」
「紫苑様の精神世界ですわ」
そこには、真っ白な薔薇の着物を纏った女性がいた
「あなたは?…何処かで…会ったような…」
「あなたの斬魄刀ですわ。名前はご存知でしょう?」
「……雪…姫」
眩しい光に思わず目を瞑った
また気が遠退く感じがする
『よろしくお願いしますわ、紫苑様』
遠くでそんな声が聞こえた気がした
「紫苑、大丈夫か?」
「お父…様」
目を開けると両親が居た
「私…雪姫と…」
「雪姫と話したのね。これからきっと、あなたの力になってくれるわ」
私は雪姫をぎゅっと握り直した
「よろしくね、雪姫」
そして紫苑は雪姫を携えて、琴乃と共に霊術院に入学した
…─
「菫、今日また工藤が紫苑と結婚させて欲しいと言ってきた」
「そう…でも断ったんでしょ?」
「あぁ。アイツの中の虚をなんとかしない限りは、認めるわけには…」
私たち以外は気づいていないみたいだけど、恐らく工藤さんの中にも紫苑とおなじ虚がいる
きっとあのとき、紫苑が刀に触れた時に入り口近くにいた幼い工藤さんにも入ってしまったんだろう
そして雪姫がついている紫苑とは違って、工藤さんの中の虚は日に日にその力が増大している気がする
このままではいずれ、傷つく者が…
そして悲劇は起きた
虚に完全に心を支配された工藤は、使用人の立場を利用して、料理に薬を盛り西園寺家の者を眠らせた
全員の命を奪って、屋敷に火をつけた
そして西園寺家は、滅亡した