第60章 アナタが笑顔なら 前編
菫と遥は屋敷の中へ入り、雪姫のもとへ向かった
「雪姫…」
「はい、菫様」
「紫苑の入学が決まったわ」
「それは、おめでとうございます」
「それで雪姫に、お願いがあるの」
「なんでしょう」
「紫苑の斬魄刀に、なって欲しいの」
雪姫は驚くかと思ったら、優しく笑った
「そんな気が、していましたわ」
「雪姫、俺からも頼む」
「勝手なこと言って、ごめんなさい。でも、貴女しか居ないの。貴女なら、きっと紫苑の中の虚を、抑えられる…」
紫苑が私たちの傍を離れて寮に入ると言っている以上、何も対策をしないわけにもいかない
遥と2人で考えた結果が、これだ
「貴女に散々苦しい思いをさせておいて、追い討ちをかけるようで心苦しいけど…」
「顔をあげてくださいませ」
雪姫の、ひんやりした手がなんだかあたたかかった
「私は紫苑様に救われたのですわ。その紫苑様を、私が守らないとお思いですか?」
「雪姫…」
「紫苑様が救ってくださったあの日から、私は紫苑様のものですわ」
死神を引退した菫様には、申し訳ありませんが
と苦笑混じりで言うもんだから、なんだか重りが少し軽くなった
「紫苑様が、受け入れてくれればですが」
「ありがとう、ありがとう…っ、雪姫」
「本当にありがとうっ」
「虚は私がなんとかしますわ」
…─
夕食後─
「紫苑着いてきて」
「はい、お母様」
そして紫苑が連れてこられたのは、通称雪姫の間
「お母様、此処は近づいてはいけないとあれ程…」
昔から、何度も言われてきた
私が入り込んでしまったからだろうか
それから一度も、此処に近づいたことはなかった
「もういいの。入って」
「はい…」
中には一振りの斬魄刀があった
白く、清く、美しい刀だった
目を奪われた
「これを紫苑、あなたに」
「え?」
「お前の斬魄刀だ」