第60章 アナタが笑顔なら 前編
「……どうして」
唇を噛み締める遥
拳を何度も握りしめる
「私のこと、好きじゃなくなった…?」
「違う!好きだよ!大好きだ…」
やっと合った目は、いつもの自信に満ち溢れた彼じゃなかった
「じゃあなんで…」
「俺は、菫が大事だよ…何よりも……」
「うん…」
「だけど、こんな俺じゃ…菫を守れない…っ」
そんなことを、考えていたの?
あの夜からずっと?
「守ってくれなくていい…」
「え?」
「私、もっともっと強くなるから。だから、私のこと守ろうと思わなくていいの」
「でも…」
「その分、心を支えて欲しい…」
霊力が無くなったって、遥が遥じゃなくなるわけじゃないんだから
「本当にいいのか?こんな俺でも…」
「私、別に強いから遥を好きになったわけじゃないからね」
菫の笑った顔を見て、俺はこの人を選んで正解だったと改めて感じた
ずっとかかっていたモヤが晴れていくのを確かに感じる
「さ、そろそろ帰ろうか」
「菫…ありがとな」
返事の代わりに菫はもう一度、眩しく笑った
…─
「雪姫」
雪姫は花が好きだ
美しいものが好きだ
私の精神世界は、いつも綺麗なもので溢れていた
少し前までは
「ねぇ、雪姫」
「菫様!気づかず申し訳ありません…」
今、この世界は雨が降り、花は少なく、虚の叫び声と、多分遥の霊力が混ざり合って渦巻いている
「もう三日以上たつのに、どうしてまだ雨が…」
私の卍解 霖雨蒼生の力は、対象を斬魄刀に封印し、三日三晩かけて癒しの雨を降らせ、対象を苦しみから救い、浄化させる
「三日たてば、どんな対象でも浄化されるはずじゃ?」
耳をつく虚の叫び声
ぬるい風のようにまとわりつく空気
こんなところ、雪姫にとっては苦しいはずだ
「恐らく、遥様の霊力が混ざってしまっているからですわ」
だけどこの卍解には代償もあって、浄化が終わるまでの三日間…力が使えなくなる
始解すらできない
敵に対しては、ただの刀になる
「色々試してはいるのですが…未だ浄化することができず、申し訳ありません」
だから、私はあまりこの卍解を使いたくなかった
雪姫に、負担がかかりすぎるから