第60章 アナタが笑顔なら 前編
「でもまぁ遥なら安心か。ね、菫」
「…うん、そうね」
そう、誰もが信じていた
西園寺遥が行くならきっと大丈夫だと
どうしてもっと、考えなかったんだろう…
「討伐隊負傷者多数!至急応援を頼みます!」
息を乱しながら、現場から一番近かっただろう六番隊に訴えてきたのは討伐隊員の一人
応援を呼んでくるよう行かされたんだろう
副隊長がすぐにメンバーを編成して、現地に向かうように指示した
その中に私も入っていた
「菫さん?行きますよ!」
動かない私に後輩が見かねて声をかける
「…あの」
「は、はい。自分…ですか?」
私は伝えに来てくれた討伐隊の隊員に声をかけていた
「遥は、無事…ですか?」
「はい。西園寺三席は無事です。今も応戦中だと思います」
「そう…ありがとう」
そして急いで現地に向かった
無事と聞いてもなお、胸騒ぎが消えない
近づけば近づく程、重苦しい霊気が周囲を埋め尽くす
「遥!」
「菫…そうか、あいつは六番隊に」
「うん。状況は?」
今は一旦影を潜めて、大人しくしているらしい
それにしても特殊な虚とは、その実体を見た者はほとんど居ないらしい
なにしろ人から人へ宿主を変えるらしい
「誰に乗り移っているか分からない。油断するなよ」
既に犠牲になってしまった人達のためにも、必ず虚を…
「まだ息がある者がいるかもしれない。確認してくれ」
「はい!」
彼の指示は的確で、この討伐隊の指揮を任されるだけはある
結局日が沈んでも虚は現れなかった
やはり逃げてしまったのだろうか
だけど、良く分からないけど此処に私たちが来たときと、空気が全く変わっていない
未だ重苦しい空気が周りを包む
夜営のテントから外に出た
今の見張りは遥と、あと2人いる
私は遥に声をかけた
「遥、交替するから少し休んで」
立ち上がった遥はゆっくりと刀を抜いた
「もしかして虚!?」
私もすぐに刀を抜いた
そして遥と並ぶように横に立ち、暗がりの森の奥を見つめた
それに習うように、2人の見張りの隊員も戦闘態勢に入る