第60章 アナタが笑顔なら 前編
アナタが笑顔なら 前編
「喜助さん、あのね…」
「どうしました?」
今日は定休日
テッサイや子供たちは早々に出掛けた
琴乃サンは平子サンのところだし、夜一サンは猫のようにふらりと居なくなるのはいつものことだ
つまりそう、紫苑と2人だ
いつもの賑やかさの無い商店
今日は特に予定もなく、紫苑とどう過ごそうか考えていた矢先、少し思い詰めたような顔をした紫苑がボクの名前を呼んだ
「あのね、お願いがあって…」
紫苑からお願いされるなんて、最近では珍しくはないけど、余り無いことで少し驚いた
「なんスか?ボクにできることなら」
紫苑は改まるようにボクの前に膝を折った
「一緒に、話を聞いて欲しいの」
「…何の、話っスか?」
全く想像がつかない
「雪姫の、話を…」
「雪姫…サン?」
雪姫サンが、何の話を…?
神妙な面持ちで何を言うかと思ったら…
「前に、過去に行ったでしょ?私」
「…はい」
「その時、お父様とお母様の姿を見に行ったのは話したでしょ?」
確かに、過去で何をして過ごしていたかを聞いたら、話の一つにご両親を遠目でだけど、見に行ったことを話してくれた
それが今更何か…?
「喜助さんには話してなかったけど、その時お父様とお母様が、気になることを言っていたの…」
そして紫苑は、あの時両親が話していた会話を喜助にも教えた
"菫、あのことだが…"
"えぇ、紫苑も霊術院に入学が決まりましたから、そろそろ雪姫に話さなければなりませんね"
"そうだな…"
"昨晩も紫苑は、うなされていたわ。これ以上中のモノが大きくならないと良いけど…"
"大丈夫…雪姫がいる"
"私のせいで…っ"
"菫だけのせいじゃない…"
「という会話をしていて…」
「確かにそれは、気になりますね」
「喜助さん、過去から帰る時に記憶を消していたから、覚えていない…よね?」
過去のボクと両親の姿を見に行ったことは聞いた
けど、事実ボクにその記憶は無い
自分自身で記憶を消したからだ
「そっスね…」