第58章 聞いてました?アタシの話
紫苑の為に…あの海を?
「まぁこれは夜一さんから聞いた話なんだけどな」
こんな巨大空間を作る人だ
あり得なくはない
「すげーよなぁ…浮竹隊長とか、京楽隊長に聞くと、浦原さんの溺愛っぷりは凄かったらしいぜ。今も相変わらずらしいけど」
「そっか…」
一護は再び天井を見上げた
「浦原さんに敵わないって思うの…なんか分かった気がするわ」
悔しいけど
「ん?なんだ、お前。紫苑が好きだったのか?」
「俺帰るわ。修行はまた今度な」
「あ、おいっ」
なんだよ一護のやつ…
せっかく相手してやろうと思ったのによ
恋次は一護を見送ったあと、斬魄刀との対話をするため精神を統一させた
…─
ふらっと出掛けた街中で、あの2人を見かけた
あちこち目移りをして、もう一人を振り回してはしゃぐ姿
あんなに楽しそうな顔を見たのは初めてだった
振り回されてる方はやれやれといった顔でもしてるのかと思ったら、これまた幸せそうで
目を細めて少し後ろから、その姿を見つめていた
あんなに優しく、幸せそうな目をしたあの人を見たのも、初めてだった
俺の心の中のなにかが、ストンと落ちるのを感じた
自分でも諦めが悪いとは思っていたけど、今、平子や阿近さんの言っていたことがわかった気がする
好きでいるのは困らせるだけ
好きな女の幸せを願える男になりたい
なんて格好いいこと、やっぱまだ言えねぇけど
幸せになってほしい
あの人の隣で、紫苑が幸せなら
本当は俺が、幸せにしてやりたかったけど
一護は目を伏せて、来た道を引き返した