第58章 聞いてました?アタシの話
紫苑は微笑んで、自室へと向かった
琴乃はというと、紫苑の言葉を思い出して頬に両手を当てていた
「なァに照れてんねや」
「て、照れてない!」
「分かりやすいんやお前」
クックッと笑う平子
琴乃はしばらく頬を染めていた
…─
「ただーいま」
「お帰りなさい、喜助さん」
「紫苑…」
「?なぁに?」
「…いえ、なんか良いことありました?」
「ふふ、ちょっとね」
「えぇー教えてくださいよ~」
「あとでね」
「お預けっスかぁ?」
…─
「はぁ…」
浦原さんから技術開発局での追加の測定をしてこいと言われた
そして尸魂界に来たついでに、たまには集中して鍛練でもしようと双極の地下に来た
もうすぐ力が消えることは分かってる
だけど、何もせずにただ力が消えていくのもなんだかもどかしくて、がむしゃらにもがいてみたりした
結局なんだか身が入らなくて、ふと気づけば紫苑のことばかり頭をよぎる
結局この巨大空間で何もせずに、天井を見上げている
「おう一護珍しいな。修行なら、付き合うぜ」
「恋次…」
恋次も度々此処で鍛練しているんだろうか
ここは鍛練にはうってつけの場所だしな…
「元気ねぇじゃねぇか」
「別に…」
一護は恋次に背を向けるように体制を変えた
恋次はふーんとつまらなそうに言いながら、一護の傍に腰かけた
「なぁ恋次…あの海ってなんのために作ったんだろうな」
体制を変えた一護の視線の先には、現世にあるのと全く同じ海が広がっていた
「あぁ、あの海か」
「息抜きか?商店の地下には、ないよな?」
あぁでも確かあそこは、一昼夜で作ったって言ってたっけか…
「なんだ知らないのか、あの噂」
そこで一護はようやく体を起こして、恋次のほうに体を向けた
「噂?」
「あの海はな、どうやら浦原さんが紫苑の為に作ったらしい」
「紫苑の…為?」
もう一度海をまじまじと見る
「紫苑は昔、現世に行けなかったらしいんだよ」
「現世に行けないって…なんで?」
「理由は良く知らねぇけど…現世の海に行きたいけど行けない紫苑の為に、海のない尸魂界に海を作ったって」