第58章 聞いてました？アタシの話

低い声で威嚇するように、ひよ里の視線が織姫に刺さる

織姫は唾を飲み込んだ


｢あの、私西園寺さんに…｣

｢分かっとるんか？！アンタのせいで紫苑傷ついてんねんで！｣

｢…分かってる」

｢分かっとるんなら…！」

｢だから謝りに来たの｣


ひよ里の小さな体をひょいっと持ち上げたのは


｢なにすんねん！ハゲ！こらァ！｣

｢紫苑に会いに来たんやろ。黙っとれひよ里｣

｢うっさいわ！離せ！｣


ジタバタするひよ里の横から紫苑が一歩前に出る


｢ありがとう、ひよ里さん。大丈夫だから｣

｢紫苑…｣

｢場所、変えよっか｣


紫苑はアジトの端のほうに、織姫と向かった


｢ウチ、やっぱりアイツ嫌いや…｣


平子に担がれながら、ひよ里はボソッと呟いた




｢ごめんね、ひよ里さんのことは気にしないでね｣

｢あ、ううん。全然…｣


ひよ里ちゃんの、西園寺さんが傷ついたって言葉が胸に刺さった

私のせいで…


｢さっき琴乃ちゃんと話して…｣

｢そう｣

｢聞いたの。西園寺さんが、男の人が駄目だって…｣


そう言って井上さんは黙り込んでしまった


｢ごめんね、私。本当はすぐ誤解を解いてあげたかったんだけど…｣

｢西園寺さんは悪くないよ！謝らなきゃいけないのは…私のほう…本当にごめんなさい｣

｢じゃあ仲直り、ね｣


紫苑はニコッと笑って、織姫に手を差し出した




｢上手いこといったみたいやんけ｣

｢紫苑がエェなら…エェけど…｣


未だ渋い顔をしたひよ里

琴乃に事の顛末をメールで報告する


｢さてと、そろそろ帰ろうかな。井上さんも、帰るでしょ？｣

｢うん、そうだね｣

｢真子、送ってってやり｣

｢へいへい｣


平子がだるそうに下りると、紫苑と織姫はありがとうと微笑んだ






…─






｢お帰り、紫苑｣

｢ただいま｣

｢真子も一緒だったんだね｣

｢織姫チャンも送ってきたで｣


紫苑の表情が随分と晴れやかになった

真子の言う通り、織姫ちゃんとのわだかまりが消えたみたい


｢琴乃、ありがと｣

｢……え、何急にっ｣