第58章 聞いてました?アタシの話
湯呑みの水面に視線を落とす琴乃
今になったって、紫苑を襲った男を許せない
のうのうと死神をやっているなんて胸糞わるい
「だから、織姫ちゃんは嫌かもしれないけど、多分一護から抱き締めたんだと思うよ」
「私、その時すぐ逃げ出しちゃったから、その後どうなったか分からなくて…」
もしかしたら黒崎くんも拒絶されたのかもしれない
だとしたら私は…
「だとしたら…ううん、だとしなくても私、やっぱり西園寺さんに酷いこと言っちゃったよね。怒ってる…かな」
「紫苑はあんまり怒ったりしないし、どちらかといえば落ち込んではいるかもね」
「西園寺さん、ひよ里ちゃんのところだよね!私行ってくる!」
「ちょっと待って!もうすぐ帰ってくると思うか…ら」
足はやっ…
台詞の中盤にはもう、彼女の姿は小さくなっていた
「私も行こうかな…」
でもご飯作らなきゃだし…
そろそろみんな帰ってくる頃だし
「真子に連絡だけ入れとこ…」
…─
♪♪♪~
「…なんやねん、うっさいのー」
今日は琴乃も居らんし、商店の手伝いはもう要らん言われたし、紫苑は来とるけどひよ里たちと楽しそうに喋っとるから…あれや
うん、暇や
ハンチングを顔に被せ夕寝を決め込んだ矢先、少し遠くに置いた携帯が音を発する
手探りで携帯を探し当て、メールを開くと恋人からだった
─織姫ちゃんが紫苑に会いに行ったから─
「織姫チャン…?」
わざわざこんなところまで…一体何の用があって
♪♪♪~
再び鳴った音に、画面に目を落とす
─ひよ里さんちゃんと見ててね!─
「ひよ里?」
「誰かワタシの結界をすり抜けて来まシタ」
「「!」」
ハッチの発言でその場の全員が警戒態勢を取る
「こ、こんにちは~。えーと、西園寺さん…居ますか?」
「ホンマに来おった…」
「なんや織姫ちゃんやないの、驚かせんといてやハッチ」
「スミマセン…」
安堵のため息を漏らした仮面のメンバーは何人かを残して散り散りに戻る
「紫苑に何の用や」