第58章 聞いてました?アタシの話
ふと、思い出した
琴乃ちゃんが西園寺さんの親友だってこと
私が西園寺さんを傷つけたと知ったら、彼女は怒るだろうか…
「もしかして紫苑のこと?」
「ひぇ!?な、なんで?」
「ふふっ、なんとなくだけど」
琴乃は頬杖をついて薄目で織姫をニヤッと見つめる
「…実は、西園寺さんに酷いこと言っちゃって…」
織姫はあの日紫苑に言ってしまったこと、全て琴乃に吐き出した
心なしか少し、スッキリした気がする
と、同時にやっぱり怒ってしまうだろうか、と恐る恐る琴乃を見た
「つまり、紫苑が一護と浮気してるんじゃないかって思ったのね」
「う、うん…」
織姫は二人が抱き合っていた光景を思い出して、再び胸が締め付けられた
西園寺さんには、何もかも敵わない…
美人で、可愛くて、料理上手で、胸が大きくて(胸は私のほうが大きいかも…)、すっごく綺麗な髪で、優しくて、頑張り屋で、強くて…
そんな彼女は、黒崎くんともお似合いだと思った
私なんかより…
「あははっ!」
「え?え…琴乃ちゃん?」
突然笑いだした琴乃に、理解が追い付かない織姫
「ごめんごめん、それは浮気じゃないよ。織姫ちゃん」
「え?ど、どうして…」
「紫苑さ、男駄目なんだよね」
「駄目って…どういうこと?」
琴乃は新しいお煎餅の袋を開けながら、懐かしむように言った
「あの子、昔男に無理矢理襲われたことがあってね。まぁ浦原さんが助けてくれたんだけど、それ以来男に触れることに、酷く拒絶反応が出るようになって」
目を細める琴乃
ゴクリと喉を鳴らす織姫
「100年も前の出来事だけど、紫苑の心に深い傷を作ったの。紫苑は100年眠っていたからほんの数年前のことに思えてるだろうし」
「そ、それじゃあ黒崎くんのことも?」
琴乃は頷く
「真子とか、阿近とか…あ、阿近てのは技術開発局の奴なんだけどね。平気な男も居るんだけど、未だにほとんどの人は駄目みたい」