第58章 聞いてました?アタシの話
「黒崎サン、アナタに紫苑は無理だ」
心に、重く響いた
「アナタはあの子に何ができますか?」
俺に…何が…
「気持ちだけじゃ、あの子はダメになる」
何もできない
敵わない
思い知らされた気がする
「…平子と同じこと言うのな」
「気が合いますね、平子サン」
「やかましわ」
喜助は平子と一護に背を向け、一度立ち止まった
「黒崎サン、アナタのことちゃんと見てくれてる人…案外近くに居るかもしれませんよ」
それじゃ、と言って喜助は歩きだした
「浦原さん、誰のこと言ってたんだ?」
「さァ」
恐怖から逃れた一護は、今一度深いため息をついた
…─
「あーどうしよぅ…やっぱりやめとこうかな…でもこのままなんて良くないし、あんなひどいこと言っちゃったしなぁ…あぁでもやっぱりなぁ…」
「何してるの?」
「ひぃあ!?」
驚いて尻餅をついた織姫に手を差し伸べる琴乃
「ごめんごめん、大丈夫?」
「だ、大丈夫…えっと東雲さん…だっけ?」
「そ。よろしくね。織姫ちゃん」
店の前で栗色の髪をした女の子が、あぁでもない、こうでもないと、右往左往していた
実際に会ったことはなかったけど、特徴からすぐにわかった
「で、こんなところで何していたの?」
「あ、えっと…うーんと…」
何か言いたげで、でもバツの悪そうな顔をした織姫
「よかったら上がってく?今誰も居ないし」
今日は休みなんだろう
シャッターの閉まった表を通りすぎ、勝手知ったる仕草で裏口から入る琴乃
「お、お邪魔します」
「今日は鉄裁さんと子供たちは公園に行ってるし、紫苑はひよ里さんたちのとこ行ってるよ。浦原さんと夜一さんはフラッとどこか出掛けたけど」
「東雲さんも此処に住んでるの?」
「琴乃でいいよ。私は此処と真子のとこ行ったり来たりしてるかな」
ささっとお茶とお茶菓子が出てくる辺り、慣れているんだろうな
「そういえば、平子くんの彼女さんなんだよね」
「私の話しはいーから」
買い物をしてきたんだろう、彼女が持っていた袋からとりあえず冷蔵物だけを冷蔵庫に入れ、織姫のところへ戻ってきた
「それで?」
「あの、私…」