第57章 なんかあったら言えよ
「儂はの、生まれてこの方風邪を引いたことがないんじゃよ」
お茶を片付けると、また一人訪問者が来た
「こ、こんにちは」
「井上さん」
井上さんとは久しぶりに会う
過去にいった私を心配して、お店まで来てくれたらしい
「本当に無事で良かった…西園寺さん」
「心配してくれてありがとう」
上がってもらって、新しいお茶を作って差し出す
「ありがとう」
「井上さんとちゃんと話すの、初めてかな?」
「そうだよね!私ずっと西園寺さんと、お話したかったんだ」
本当にこの子は素直というか、隠し事ができなそうなまっすぐな子だ
「えっと…」
でもさっきから、笑顔がひきつっているように見えるのは、気のせいではないだろう
「何か、言いたいことでもあるの?」
「ふぇっ?!あ、や…そんなんじゃ……えと…」
わかりやすく同様する彼女
傍らでは夜一が静かに寝息をたてている
「あの…ね、見ちゃったの」
「見ちゃった?何を?」
落ち着きなくあちこちに目線を移す井上さん
一体何を見たというのか
「く、黒崎くんと西園寺さんが…その、抱き合ってるところ!」
「抱き合って…?」
一瞬、何のことだか分からなかった
けどすぐに思い出した
黒崎くんに告白された時のことだろう
「く、黒崎くんが西園寺さんを好きなのは、なんとなく分かってたの!」
「あの、あれは…」
「でも、西園寺さんには浦原さんが居るんだよねっ?私2人のことすっごく好きだから、やっぱりこういうのは良くないと思うの!」
「あの、違うの…」
「もし、もし西園寺さんが遊びとか、そんな軽い気持ちで黒崎くんと会ってるなら…思わせ振りなことしてるならやめて欲しいの!西園寺さんももし、本当に黒崎くんが好きなら、浦原さんとちゃんとして段階を踏むべきなんじゃないかなっ…」
息継ぎも程ほどに、心の内を言い切った織姫は軽く息を切らしていた
「…黒崎くんのこと、本当に好きなんだね」
「え、あっ…私そんなこと一言もっ」
顔を真っ赤にして両手を横に振る姿が愛らしい
「ていうか私っ、急にごめんね!変なこと言って!わ、忘れてね!本当にごめんなさい」
「あ、待って!」