第55章 俺と付き合ってくれねぇか?
再び瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた
「よしよし…とりあえず商店に戻りましょうか。身体冷えちゃいますし」
喜助は紫苑の手をとり、右手は真ん中に持ってきて紫苑との間に傘をさしながら、ゆっくりと歩き始めた
…─
「あ、紫苑おかえり!…って、ズブ濡れじゃん」
琴乃は畳んだばかりのタオルを一枚取り、紫苑に手渡す
「ただいま…」
細く、小さな声
それだけで何かあっただろうことは容易に想像できる
タオルを受け取り、ただいま、と一言呟いてお風呂場に直行する紫苑
琴乃は玄関で羽織を脱ぐ喜助に話しかけた
「何かあったんですか?」
「まだ聞けてないんス。琴乃サン、何か暖まるもの作っておいてくれませんか?」
「それは良いですけど…」
…─
「琴乃ありがと…」
お風呂を出た紫苑は、温かい生姜湯を用意してくれた琴乃に礼を言い、既に着替えていた喜助の隣に座った
「いーえ。じゃあ私店に出てるね」
「よろしくっス」
気を遣ってくれたのだろう
店先には鉄裁、ジン太、雨がいる
本当なら琴乃サンは行かなくても問題ないけど、今はその気遣いに感謝した
紫苑は一口生姜湯を口に入れ、はぁとため息を吐いた
「美味しいっスね、コレ」
紫苑は答えずに、湯呑みの水面を見つめている
ボクの大事な紫苑をこんなにしたのは一体なんなのか
理由によっては怒りを抑えられそうにない
「…告白されたの」
ポツリ、呟くように言った言葉をボクは聞き逃さなかった
「…誰にっスか?」
「……黒崎くんに」
驚きはしなかった
彼の紫苑への気持ちは知っていたし、割りと感情的になることが多い人だ
気持ちが先走って、勢いか、紫苑にその気持ちを伝えることもいずれあるだろうとは思っていた
だけど、なら何故紫苑はこんなに弱々しくなっている?
見るからに表情は暗く、それに泣き腫らした目
「何かされたんスか?」
「怒らないであげてくれる?」
「それは、約束できないっスけど…」