第55章 俺と付き合ってくれねぇか?
「俺と付き合ってくれねぇか?浦原さんよりも大事にする。幸せにするから…」
息ができない
頭が真っ白になって、黒崎くんが何を言ったのかも分からない
私の頭にあるのは、あの時と同じ恐怖だけだった
「……して」
離して
そう言いたいのに声が出ない
視界がぼやけていく
身体が震えるのが自分でもわかる
「紫苑…?大丈夫か?」
異変に気づいた一護は、紫苑と少しだけ距離をとった
「あ、おい!紫苑!」
「……なさっ…!」
ほとんど言えてなかったけど、確かに"ごめんなさい"と言っていた
俺の伸ばした手は空を掴んだ
ごめんなさいってなんだよ…
俺、やっぱりフラれたのか?
最後に見た紫苑の潤んだ瞳が、脳に焼き付いている
雨に構わず走り去る、紫苑の後ろ姿をただ見つめていた
…─
力を振り絞って走った
怖い
ただ、それだけが頭を支配していた
雨に濡れて服が重みを増していく
心臓の音が響く
「きゃっ」
角を曲がった途端、何かにぶつかった
反動でよろけた身体が、強い力に引かれた
「紫苑…?どうしたんスか!?」
「…き、すけ…さ」
その顔を見た途端、紫苑の中の何かがプツンと切れて、両目からポロポロと涙がこぼれ落ちた
喜助の腰に手をまわすと、次第に落ち着いていく震え
胸に耳をあてると、早かった心臓の鼓動が不思議と同調していく
どうしてこんなにも、喜助さんじゃないと駄目なんだろう…
紫苑が落ち着くまで、喜助は紫苑の頭を撫でていた
一体何があったのか…
紫苑とぶつかる少し前、心拍数が早くなったのを確認した
自然と駆け足になる
角を曲がった瞬間、ぶつかってきたのは紫苑だった
「落ち着いた?」
喜助に抱きつきながら、静かに頷く紫苑
「何か、あったんスか?」
「ぁ……」
思い出されるさっきの出来事
思い出される腕の感触
喜助の羽織を握る手に力が入る