第54章 本気になる前にやめとき
「なんか上、盛り上がってますね…」
「気になります?」
琴乃がニヤニヤと喜助にお茶を出しながら、面白そうに笑っている
「そりゃ、気になりますよ」
「表のほうも気になってるんでしょ」
「……」
まぁ、上はなんだか楽しそうだから良いんスけど、表の二人の会話はあまり想像できない
聞き耳たてたくなる衝動を必死に抑える
…─
「同じって…何がだよ」
平子は100年前のことを思い出した
「俺な、昔紫苑のこと好きやってん」
「……そうなのか?」
驚いた
今は琴乃にしか目がないくらいに、ゾッコンなのに
「せやけど紫苑はすぐ喜助とくっついてな、最初は奪ってやる思ててんけど、二人見てたら無理やと思った」
「諦めたのかよ…」
「…紫苑が辛い思いしたとき、アイツの欲しい言葉を言ってやれんかったし、それを言ったんは喜助や。俺じゃ駄目なんやと思う時が何度もあった。喜助の隣に居る紫苑、エライ幸せそうやったしな」
「平子…」
「だから、俺が好きで居るんは紫苑困らせるだけやと思った…から、告白して、フラれて諦めたんや」
無くなってしまったコーヒーを合図に、平子は立ち上がった
「俺と紫苑は多分、合わないんやろな」
「合わない…か」
「まァそのあとは琴乃が、忘れさせてくれたんやけどなァ」
最後のニヤケ顔に一護は冷たい視線をおくる
「でも…決めるのは紫苑だろ」
「まァな…無理にとは言わんけど、本気になる前にやめとき。あの2人は絶対別れへんで」
そう言い残して平子は商店へと入っていった
一護は拳を握りしめて、商店に背を向けた
「あ、真子。一護は?」
「さァー」
「さぁって…」
平子はダルそうにゴミ箱にコーヒーの空のカップを投げ入れて、琴乃に近づいた
「お前あんまし一護と仲良くすんなや」
「え、妬いてくれたの?」
「妬いてへん」
その二人のやり取りを喜助は頬杖をつきながら見ていた
「おアツいっスね」
「お前もいつまでもモタクサしてっと、一護に持ってかれるで。若いモンの勢いは凄いからなァ」
「なんの話っスか」
喜助の鋭い視線をかわして、平子はインスタントコーヒーをいれ始めた