第54章 本気になる前にやめとき
「それより、黒崎サンも来たと思ったんスけど」
「えぇ、なんか表で真子と話し始めましたよ」
「表で?」
「男同士で話したいことでも、あるんじゃないですか?」
「へぇ…」
喜助は店の中から外を見たが、二人の姿は目に入らなかった
紫苑の話しじゃなかったら、いいんスけど…
…─
「ほんで、お前紫苑のこと本気なんか?」
「な、なんだよ急に」
座り込んで一護を見上げる平子
片手にはコーヒーをぶら下げて
「どうなんや」
「……まだ出会ったばかりだし、良く知らねぇから、本気かどうかって聞かれたら正直わかんねぇ。けどアイツのこと好きなのは確かだよ」
ふとしたとき、紫苑のことが頭に浮かんでくる
こんな気持ちになったのは初めてだ
「悪いこと言わんから、本気になる前にやめとき」
「は?」
「お前に勝ち目ないで」
後押しする言葉でも言ってくれるかと思いきや…
「叶わん恋は辛いだけや」
「叶わないって…なんでお前にそんなこと言われなきゃいけねぇんだよ!」
一護は見下ろす目線に怒りをこめた
「お前に紫苑は無理や。アイツが経験してきた痛み、闇、苦しみ…お前にそれが分かるか、支えられるか?」
「…何があったかなんて、浦原さんからの話しで聞いたくらいだから、良くは知らねぇけど…分かってやりてぇ…支えてやりてぇ…それじゃ駄目なのかよ」
「俺もおんなしやった…」
…─
「紫苑さん、お薬置いていきますから、ちゃんと飲んでくださいね」
「ほんと勇音さんは頼りになるね」
紫苑はさっそくそのうちの1つを口に入れた
「ね、勇音さん。私、今が一番幸せな気がする」
「え?」
「喜助さんの傍に居れて、琴乃が戻ってきて、信頼している担当はこうやってわざわざ会いに来てくれるし…」
「何言ってるんですか!紫苑さん!」
「へ?」
「私、ずっと気になってたんですけど…女の幸せはやっぱり結婚だと思うんです!」
勇音の気迫に思わず何度か瞬きする
真剣な目から視線を外せない
「け、結婚…」
「浦原さんと結婚の予定はないんですか?もう二人、熟年夫婦並みに一緒にいるのに、いつまでも初々しいから…正直モヤモヤします」