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With me

第53章  私を忘れないで…



まだ少し納得できない表情の紫苑の口が不意に塞がれた

ゆっくり離れる唇


紫苑は目をパチクリさせた


「元気になったら良いところに連れてってあげますよ」

「良いところって?」

「秘密」


イタズラするみたいにニィッと笑って人差し指をたてる


「あぁそれと…」


喜助はよく使う引き出しからシャラリと何かを取り出した


「あ、それ…!」

「髪あげて」


紫苑は言われた通りに、髪を軽くまとめて持ち上げる

首にかかる、割れたはずのネックレス

留め具をつけた喜助は、紫苑の髪をおろした


「あの時壊れちゃったでしょう?」


紫苑は首に下がったそれを懐かしそうに見つめた


「ありがとう…喜助さん」


前と同じ、中には勿忘草の花が揺れている


「そういえば、これが割れて琴乃が記憶を取り戻したんだよね」


なんでだろ…と考え込む紫苑


「少し調べたんスけど、勿忘草には"私を忘れないで"っていう花言葉があるみたいなんス」

「私を忘れないで…」


だから琴乃は、私を思い出してくれたのかな…


「喜助さんのおかげだね」

「ボクは何も」

「これが無かったら…ケホッケホ」


突然紫苑が咳込む

やはり風邪だろうか


「そろそろ寝ましょうか」

「うん…おやすみなさい」

「おやすみ」


やけに大人しく目を閉じた


寝息が聞こえたのを合図に喜助は下に降りた


「喜助!思い出したぞ!」


下に戻ると夜一サンが、嬉しそうに詰め寄ってきた


「な、なんスか…」

「100年前、儂の誕生会を断った時じゃ!初詣でお主の隣に居た女子…あの時は分からなかったが…なるほど紫苑じゃったか」


喜助は目を丸くした


「初詣なんか行ってたんスか…アタシ」

「え、何々どういうこと?話がわかんないんだけど」


自分で自分の記憶を消した

だからボクには紫苑と初詣に行った記憶はない


「あのあと喜助は一切その女子のことを話さなくなっての。聞いてもまるで覚えておらんかった…そうか、記憶置換のせいじゃったか…」

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