第53章 私を忘れないで…
プルルルルル─
「ん……」
プルルルルル─
「もう少し…寝かせて…」
プルルルルルプルルルルル─
「………はぁ」
鳴り止まない伝令神機に、紫苑はついに諦めたようにそれを手に取る
「……はい」
「はい、じゃないヨ!出るのが遅いんだヨ!私は待たされるのは嫌いだヨ!戻ってきたんだろう?総隊長がお呼びだ。分かったら今すぐ尸魂界へ来るんだヨ!分かったネ!?」
ガチャッ─ツーツーツー…
大きな声に漫画のように、思わず耳を離した
頭がキーンと音をたてる
まだ半分閉じている瞼を必死に開けながら、状況を整理した
「………朝?」
私、寝ちゃったんだ…
せっかく琴乃がごはんを作ってくれたのに…
ふと隣を見ると、喜助さんが寝ていた形跡がある
「もう起きてるんだ…」
時刻は6時を過ぎた頃
寝かせといてくれたんだね…
そこで漸く先程の電話の内容を思い出す
さっきの声は、マユリさん…
そして用件は…
"総隊長がお呼びだヨ!"
……総隊長?
総隊長が私に一体なんの用だろう…
過去に行っていた件なら、私より喜助さんのほうが上手く説明してくれると思うけど…
過去?
紫苑は自分の記憶の中にほんの僅かな違和感を覚えたが、すぐに用事を思い出して頭の中を切り替えた
どうやら喜助の記憶置換は成功したみたいだ
紫苑はなるべく急いで身支度をして、1階部分へと降りた
電話の大きい声のせいか、頭が痛い…
「おはよう喜助さん、ちょっと尸魂界に行ってくるね」
眠い目をこすりながら話しかけると、帳簿に目を通していた喜助は目を見開いて、紫苑を見た
「尸魂界に?こんな朝早く?」
「うん、マユリさんから電話が来て、なんか総隊長が呼んでるって…」
「総隊長が……一体何の話っスかね」
「分かんない…」
さっきまで寝ていたんだろう…
小さなあくびを混ぜながら、朝が苦手な紫苑の肩が落ちている
「ボクも一緒に行きま…「なりません!!」」
着いて行く気満々の、立ち上がった喜助の前に現れたのは鉄裁だった