第53章 私を忘れないで…
「平子隊長…心配かけてすみませんでした…」
「えぇって。無事で何よりや。また琴乃と仲良ォしてやってくれや」
「もちろんです!喜助さん、とりあえず私着替えてくるね」
「手伝います?」
「…もぉ!」
いつもと変わらない表情で、変態チックなことを言うもんだから一瞬思考が停止した
平子隊長は慣れてる、と言わんばかりに大して気にも止めていない
部屋に入ると3週間くらいしか過去にいっていなかったのに、凄く懐かしく感じる
相変わらず、敷いた布団畳まないんだから…
いつもいつも畳むのは私なんだから…と口では文句を言いながらも頬は綻んでいる
もう夜だしなぁ…
とりあえず整えよう
掛け布団に手を伸ばしたとき
ふわっと僅かに香る恋人の匂い
不思議…
向こうに居た時も、喜助さんと寝ていたりしたから嗅いでいた匂いなのに
同じ匂いなのに、なにか違う
そういえば、喜助さんと初めて出会ったとき、会ったことがあるって思ったのは、過去で会ってたからなのかなぁ
紫苑は喜助の匂いが一番強い枕を胸に抱いて、大好きな匂いをいっぱいに吸い込んだ
…─
「紫苑遅いっスね」
着替えてくると言った彼女
あのあと琴乃サンが張り切っちゃって、なんだかんだ時間が経った
食卓には、それはもう豪勢な食事が用意された
さすが貴族の元使用人といったところか
「喜助、お前呼んできィ」
喜助は立ち上がると、階段を上がり明かりが漏れる部屋の襖を開けた
「……ありゃ」
喜助の目に映ったのは、自分の枕を抱き締め、縮こまるように寝息をたてている紫苑だった
ボクの部屋に反応があったのは、過去のボクの部屋に居たからなんスね
喜助は紫苑に近づき、優しい瞳でその頭を撫でた
「疲れたでしょう…おやすみ、紫苑」
掛布団を肩まで掛けて、静かに頬にキスをした
明かりを消して、居間に戻った
「紫苑は?」
「スミマセン、琴乃サン。寝ちゃいました」
えーっ、とちょっと残念そうな琴乃サン
「なーに、ニヤついとんや。気色悪ゥ」
「いーえ、別に」
と冷たい言葉を言いつつも、その顔は変わらず緩んでいた