第52章 今、誰の隣に居ますか?
「喜助さん!」
少しずつ、自分から離れていく彼女
迷わず紫苑サンが飛び込む、同じ顔の男
刺し殺したいくらいに胸の奥が燃えた気がした
「遅くなって、ごめんね…」
「ううん、迎えに来てくれてありがとう…」
幸せそうな彼女の顔
ボクには出せなかった彼女の顔
「アタシの紫苑が、お世話になりました」
まるで自分のモノかのように、腰を抱き寄せ当たり前のように、彼女の横に並ぶ男
「早いっスね。もう、帰っちゃうんスか?」
「浦原喜助は1人でいいんスよ」
過去の自分とまるで目も合わせない喜助さん
どこか怒っているようにも感じる
「紫苑、帰りますよ」
「あ、うん」
最後にもう一度お礼を言おうと、彼の元に行こうとしたとき、喜助の腰に回した手がそれを許さなかった
「紫苑サン、お元気で」
「あの!本当に色々ありがとう!」
ありがとう紫苑サン
アナタに会えて良かった
アナタの言っていた通り、もう少し先の未来でまた会えると思ったら、そこまで寂しくないかもしれない
行かないで
ちゃんと、そう言いたかった
喜助は振り向きもせず、後ろ手に何かを放って夕焼けに消えていった
目を瞑ったのは一瞬で、開くとそこは
「技術開発局?」
「ふぅ…どうやら無事に戻ってこれたみたいっスね」
確かにあの時代にまだ技術開発局はない
本当に、帰ってこれたんだ…
「紫苑!お前…」
「阿近!」
「浦原さんが急にどっかいっちまうから驚いたけど、お前一体今までどこに…」
「ちょっと過去に…」
紫苑が答えようとすると、喜助はその手を引いてそれを阻止した
「スミマセン、感動の再会は後でお願いしますね」
そう言って紫苑の手を引いて、技術開発局を出た
「ねぇ、最後に何投げたの?」
「あぁ、あれは記憶置換の丸薬っスよ」
「…どうして?」
歩きながら喜助は、不思議なものを見る顔で紫苑を見た