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With me

第52章  今、誰の隣に居ますか?



部屋の外で座り込んでいた喜助の表情は沈んでいた


「なんだってここ、壁薄いんスかね…」


電話の内容が聞こえてしまった


いつかこんな日が来るなんて、分かりきっていたのに


結局子供みたいに駄々をこねて、紫苑サンが未来に帰る研究をするフリをして、結局できなかった


居なくなってしまう…


そしてちゃんと気付いた自分の気持ち




部屋の襖を開けると、伝令神機とやらを握りしめる紫苑サン

ほんのり潤んだ瞳


「喜助さん…」

「良かったっスね…迎えに、来てくれるんでしょう?」


紫苑サンは小さく頷く


「喜助さん、色々ありがとう…」

「ボクは、何もしてないっスよ」


彼女から別れの言葉が聞きたくなくて、その体を抱き締めた


「未来のボクが来る前に、言っておきたいことがあるんス」


そのまま聞いて、と喜助は紫苑を抱き締める腕に力をいれた



「紫苑サン、アナタが好きです」



初めて恋した相手は、未来人でした


なんて、物語でも書けそうっスね…



腕の中で少しだけ震えた紫苑サンが愛おしくて、離したくなくて、胸が痛かった


「帰ってほしくない…ずっと此処に居ればいい…ボクが幸せにするから…」


喜助さんの気持ちが痛いほど伝わってくる


「…なんて言ったら紫苑サン、困っちゃいますよね」


あの時と同じ台詞を、あの時より辛そうな顔で…


「大丈夫。きっと、もうすぐ会えるから…」

「もうすぐ…っスか」


ボクが欲しいのは今、目の前にいるアナタなのに…


「あの…渡したいものあるんで、ちょっとだけ目閉じてて貰えます?」

「え、うん…」


紫苑サン、ごめんね

だけど、これくらい許してくださいね


警戒心の欠片もなく大人しく言うことを聞く紫苑サンに、そっと唇を重ねた


ピクンと反応した紫苑から、名残惜しそうに離れる


「喜助…さん」


顔を真っ赤にして口元を隠して、どこまで可愛いんだこの人は


「ボクのこと、忘れないでくださいね」


悲しく微笑んだ喜助は立ち上がり、部屋の襖に手をかけた


「お迎えが来たみたいっスよ」

「こんばんは。ウチの紫苑居ます?」


まるで子供を迎えに来た親みたいに


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