第52章 今、誰の隣に居ますか?
「どうしてって…だって嫌っスもん。あの男に紫苑の記憶が残ってるなんて」
「でもあの人も喜助さんも、喜助さんでしょ?」
「いや、そっスけど…」
でもやっぱり嫌だ
同じ?胸糞が悪い
あれはボクであってボクじゃない
でもやっぱりボクで…
あーイライラしてきた
「なんか変なことされなかったっスか?」
「え……ぁ」
紫苑は如何にも何かありました、と言わんばかりの顔をした
「なんスかその反応…」
もじもじと下を向く紫苑
明らかに何かあったとしか思えない
「告白されて…キス……されました。あと、一緒の布団で…寝まし…た」
小さい声でも喜助の耳にはしっかり届いた
「……紫苑」
怖くて顔があげられない
怒っているんだろうか、それともショックを受けているんだろうか
「何ボク以外の男に唇許してんスか…色々ありがとうって何スか?二人で何してたんスか?一緒に寝た?一緒に、寝た?男と二人きりになっちゃいけないとあれほど…」
ボク以外って…本人のくせに…
科学者の言うことはたまによく分からない
「いや、あの…不可抗力っていうか…喜助さんだから、油断しちゃったというか…だってだって…寂しくて寂しくて目の前に過去でも喜助さんが居たら、すがりたくなっちゃうよ…」
そうっスよね…
寂しかったっスよね
ボクだって同じ立場になればきっと
それは分かってるつもなんスけど…
「お仕置き」
え?と紫苑が声をあげるより早く、屈んだ喜助は紫苑の口を塞いだ
「…ん」
離れたと思ったら更に深いキスが降ってきて、思わず喜助さんの羽織を握っていた
「消毒」
自分に嫉妬しちゃうなんて…ちょっと可愛い…
紫苑は歩き出そうとする喜助に、抱きついてそれを阻止した
「喜助さん…会いたかった」
目を見開いた喜助は、満足そうに微笑んだ
「ボクも会いたかった」
たっぷり潤んだ紫苑の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる
「よく頑張ったね」
と言って紫苑を優しく包み込んだ
今までの不安を吐き出すように、紫苑は喜助の胸で涙を流した