第52章 今、誰の隣に居ますか?
"もしもし喜助さん?今日ちょっと遅くなるね"
"喜助さん、気をつけて帰ってきてね"
"洗濯物取り込んでおいて!"
何気ないメッセージ
もう何日も耳にしていない声が、脳を震わせる
会いたい…
これ以上聞いていると頭がおかしくなりそうだ
画面を閉じようとした時、どこか違うボタンを押してしまって画面が切り替わる
プルルルル…プルルルル…
電話をかけてしまったようだ…
焦って電源ボタンを押そうとする喜助の手がとまった
画面に表示された電話の発信先は
「紫苑…」
何度かコールをしてツー…ツー…と呼び出しが終わった
「…な訳ないっスよね…」
どこの次元にいるかも分からない
期待した自分が馬鹿だった
─メッセージをどうぞ─
機械的な声のあとにツー、と音が鳴った
喜助はそれに手を伸ばしていた
…─
「付いてきてくれて、ありがとう」
部屋に戻ると紫苑サンが、外套を脱いで渡してきた
こんな日は、1人になりたいんスかね…
考えたこともない女心を予想しながら、喜助は少し出てきますと言って、部屋を出た
気を遣ってくれたのだろうか…
喜助さんが部屋を出た
その優しさが、心に染みた
座り込んだ紫苑のポケットから伝令神機が落ちる
当然のようにそれを取り上げると、画面に表示された文字
─留守番電話 1件─
いつものように、なんの疑問もなく、当然のように開いたそこで、紫苑は目を丸くした
─喜助さん─
どういうことだろう…これは
喜助さんなら今日はずっと一緒に居た
いや、喜助さんがまだ技術開発局を作ってないこの時代に伝令神機があるはずがない
紫苑の指が自然と早くなる
─再生しますか─
音声メッセージに従いボタンを押す
ドキドキして、受話器を耳に押し当てた
"……紫苑……"
大好きな、喜助さんの声
私を紫苑、と呼ぶいつもの声
"紫苑…何処に居るんスか……
もう、門限とっくに過ぎてますからね
帰ったら、お仕置きっスよ
誕生日…過ぎちゃいましたよ…
…なんて、届くわけないのに何言ってるんスかね…ボクは"