第52章  今、誰の隣に居ますか？

｢夜一サン」

｢んー」

｢やっぱりこれが、恋なんスかね」


昔馴染みの、男のそんな悩みを初めて聞いた


｢まぁ、お主のそんな顔は初めてじゃな」


特定の女は作らんし、来るもの拒まずで適当に楽しんで、去るもの追わずで頭を悩ませたことすらないというのに


｢…彼女とは一緒になれないんス」

｢ほぉ…貴族か？それとも？」

｢そういうんじゃないんスよ」


珍しい

本当に珍しい


この男が儂に相談ごとなど、それも色恋の

調子が狂う


｢彼女、大切な人が居るんス」

｢なんじゃ遊ばれとるのか。珍しいのぅ」

｢ち、違いますよ！ボクが勝手に…」

｢今度紹介するが良いぞ｣

｢絶対嫌っス｣


そのあと喜助は黙り込んでしまった

目線が下がってたまに吐く息はとても弱々しい


｢気持ちくらい伝えても良いのではないか？」

｢…彼女、多分もうすぐ居なくなってしまうんです」


んー訳がわからん

貴族の姫で、見合いでもするというのか？


｢ボクが気持ちを伝えたところで、彼女を困らせるだけなんじゃないかって…」

｢儂には良ぉ分からんが、女としてはそういう気持ちを持たれていることは嬉しいことではないのか」

｢…そうっスかねぇ」


はぁー…

とまたため息

全く仕事が手についていない

正月休み明けも手伝ってるだろう

今日は大目に見てやるとするか






…─





｢待って、真子」


検品を終わらせ、立ち上がろうとした平子の手を押さえる

おっと…と言いながらもう一度座った平子は琴乃の真剣な表情に驚いた


｢なんや、改まって」

｢私ずっと…」

｢検品終わったか～？」


一護の声にパッと手を離す琴乃


｢い、今持っていくね！」


照れたように、悔しそうに、琴乃は段ボールを持って一護のところへ駆けていった


｢なんやねん…アイツ」


珍しい顔するもんやな…