第52章 今、誰の隣に居ますか?
草冠が消え、王印を取られたあと、喜助はすぐに発信器の反応を確認した
血相を変えて向かったのは、喜助が二番隊時代に住んでいた部屋
じゃがそこに紫苑は居なかった
周囲一帯も探し回ったが、その痕跡すら見つからなかったらしい
「しばらく此方に居たらどうじゃ」
それだけ言い残して、夜一は背を向けた
縁側から部屋に戻り、布団の前に座る
前言撤回…
寂しくて寂しくて、少しの温もりでもいいから、紫苑を感じたい
喜助は布団を広げて、眠りについた
…─
数日が経って、体の傷も大分良くなった紫苑は少しずつ喜助の部屋の片付けを始めた
「スミマセン、片付けてもらっちゃって」
紫苑は洗い物の手を止めると、声のした方に振り返った
「いえ、居候させてもらってますし」
「情けないっスよね、部屋だけはどうにも保てなくて」
「知ってますよ」
知ってるのか
そりゃそっスよね
未来の恋人…
ダメだ
まだ実感が湧かないというか、信じられない
違和感
けど、やっぱりどうしてか無関係に思えなくて
そういう話を聞く前から、なんだか知っていたような、昔馴染みなような
そんな変な感じがする
「紫苑サン、布団買いにいきません?」
「あ、すみません。本当はちゃんと弁償したいんですけど…」
お金持ってないし…
あの血だらけになってしまった布団は早々に部屋の隅に追いやった
押し入れにしまいっぱなしになっていた来客用(一度も使ったことがない)の布団を引っ張り出した
その布団も人様を寝かせられるようなモノではなかったけど、血だらけの布団よりはマシだろう
「でも私、外に出て大丈夫ですか?ほら、一応存在してないというか…」
それに一組しかない布団に、さすがに一緒に寝る訳にはいかないから、新しいのを二組買ってこよう
「確かに…余計な騒ぎを起こしてしまうかもしれないっスねぇ」
ちなみにボクはここ数日は隊舎のほうで寝ていたけど、どうにも紫苑サンが気になってまともに眠れなくて、やっぱり部屋で寝ようと思ったところだ
「じゃあ今日の帰りに買ってきますね。少し遅くなりますけど、大丈夫っスか?」