第52章 今、誰の隣に居ますか?
浦原商店─
「只今戻りました」
「喜助、帰ったのか」
夜一が出迎えると、それに続いて鉄裁が台所から顔を出した
「すみません、店長。子供たちがどうしても、と言うもので」
すると何やら台所からわちゃわちゃと声がする
おそらく子供たちだろう
賑やかに出てきた2人の手には、大きなケーキがあった
「キスケさん、お誕生日おめでとう!」
ジン太は照れているのか向こうを向いている
「子供たちがどうしても、喜助の誕生日を祝いたいと言うからの」
薄く微笑む喜助
「アタシのために作ってくれたんスか…ありがとう」
喜助が雨とジン太の頭を撫でると、くすぐったそうに2人は俯いた
「キスケさんに少しでも元気だしてほしくて…紫苑さんみたいに、上手にはできなかったけど…」
「紫苑さんならそのうちひょっこり帰ってくるって!だから、その…元気出せよな!店長!」
誕生日なんて忘れていた
紫苑が居ないイベントなんて、意味がないと思っていた
だけど、商店のみんなの気持ちに触れて、思ったよりも心配をかけていたんだと気づく
「大ー丈夫っス!紫苑は必ず、アタシが見つけますから!」
喜助は今できる限りの明るい声で答えた
夜─
子供たちも寝静まり、喜助は寒空の下縁側に出た
喜助の部屋には畳まれたままの布団が一組
「眠れないのか」
「夜一サン」
雪の日は、紫苑が初めて迎えに来てくれた日を思い出す
雪の日は、初めて2人で泊まった日のことを思い出す
「何かあるとすぐに睡眠と食事を疎かにする…昔よぅ紫苑にそう言っていたの」
「まるで今のボクっスね…」
子供たちには悪いけど、こんなに誕生日がさみしいと思ったことはない
それは、紫苑が誕生日の幸せをくれたから
紫苑がいたから、何百回と迎えた誕生日が幸せなものだと思えた
どうして今、君は隣に居ないんスか
「儂が隣で寝てやっても良いぞ」
今、誰の隣に居ますか?
「勘弁してくださいよ」
それとも独りで泣いているの?
あの布団で寝るのが怖い
紫苑の温もりを、思い出すのが怖い
100年離れていたあの時より、今のほうがずっと辛い…
「冗談じゃ」