第52章  今、誰の隣に居ますか？

阿近はポケットに入れた伝令神機の振動を感じる

電子書簡を開くと、珍しい相手からのメッセージだった


しばらく喜助の様子をみていた阿近は、喜助が画面から目を離し、頭を抱えたのを待ってましたとばかりに声をかけた


｢鉄裁さんから連絡ですよ｣


喜助に伝令神機の画面が見えるように、目の前に差し出した

おそらく喜助本人にも送ったのだろうが、如何せんこの調子だ

返事がなく、困り果て俺に送ってきたんだろう


喜助は無言で伝令神機を受け取り、画面を見つめる

少し考え込む時間があっただろうか

読み終えた喜助は立ち上がり、阿近に伝令神機を返すと最低限の言葉だけを発して、その場を去った


｢少し、向こうに帰ります｣


その背中はとても小さく見えた


｢元気ないっスね｣

｢ふぅ、やれやれ。やっと帰ったか。全く昔から、１人の女に執着しすぎじゃないのかネ｣

｢俺があの人の立場でも、きっと同じことをしたと思いますよ｣

｢それは君が紫苑に惚れているからだろう？｣


浦原さんはこっちに来てからロクに睡眠も食事も取らず、ひたすら画面と睨みあっている

さすがに向こうの商店の施設では限界があるんだろうか

それとも手っ取り早いだけなのだろうか

頼みの発信器が示した場所には、紫苑は居なかったらしい

ウチの隊長に頭を下げにきた

思えば浦原さんが頭を下げるのは、だいたいいつも紫苑のことのような気がする

何処行っちまったって言うんだよ

隊長はというと、文句を言いながらも場所を提供しているところを見ると、あれはあれで紫苑のことを心配はしているんだろう

隊長なりの分かりづらい優しさといったあたりか、照れ隠しか


たまに隊長も、紫苑のことを探しているのをこっそり見たことがある


早く戻ってこい…紫苑