第52章 今、誰の隣に居ますか?
少しだけ顔をあげて、こっそり喜助の顔を見ると、ほんのり頬が赤く染まっていた
「あ…の…」
「あ、スミマセン!…いや、紫苑サンみたいな美人サンがボクの恋人だなんて…なんか、信じられないっス」
彼女のことを、未来のボクが紫苑、と呼んでいるなんて信じられなかった
そもそも誰かを呼び捨てで呼んだことはないし、呼ぼうと思ったこともない
そして彼女を初めて見た瞬間、胸がドクンと鳴った
初めての感覚だった
というより自分に恋人という存在が居ること自体驚きだ
「私も…喜助さんみたいな素敵な人が恋人なんて、未だに信じられないんです」
「素敵…ねぇ」
素敵っスかぁ?
と聞こえてきそうな顔もまた、やっぱり好きだ
未来のボクは紫苑サンと、一体どんな日々を過ごしているというのか
「喜助さんは、私にはもったいないくらい、強くて優しくて素敵な人なんです」
はにかんだ微笑みで、間接的とはいえ自分のことをそんな風に言われるともう、照れるしかない
「なら早く未来に帰らないとっスね」
「はい」
「詳しく聞かせてください。ボクにできることならお手伝いしますよ」
「ありがとう…」
…─
「浦原さん、居ますー?」
浦原商店の扉を勢い良くあけたのは、栗色の髪が特徴的な井上織姫
「喜助なら居らんぞ」
「夜一さん!」
黒猫の姿で織姫を出迎えた夜一は、中に入るように促す
織姫が扉を閉めたのを確認して、夜一は変化を解いた
「ずっと、居ないんですか?」
あの王印事件のすぐ後、紫苑が消えたことを聞いた織姫は居ても立ってもいられずに、浦原商店を訪れた
喜助は出迎えてはくれたが、質問にはほとんど上の空で、結局まともに会話もできず、すぐに店を出た
「二週間になるかの…技術開発局に入り浸りじゃ」
向こうのほうが設備が整っているから、という理由だろうが、きっと現局長に嫌みを言われながらやっているのだろう
「全く…藍染のことで此処の認知度が上がって、死神の来客が増えたというのに…」