第52章  今、誰の隣に居ますか？

｢そうっスけど…どうかしました？｣

｢どうかしました？じゃないわよ！誰よあの女！｣

｢女…？｣


体を傾けて布団のほうを見ると、見たこともない女が寝ていた

途端、体に電流のようなものが走る


今の感覚は…一体…


｢ひどいじゃない！私との約束の日に違う女連れ込むなんて！｣

｢い、いや知らない女性っスよ｣

｢バレバレな嘘つかないでよ！｣


その時、布団の女が重そうな体をようやく起こして、何度か瞬きをした


｢…ん…ぅ……いったぁ｣

｢あのぉ…｣


喜助と呼ばれた男が声をかけると、紫苑は目をパチッと開いた


｢喜助さん！良かった…｣


立ち上がり、女性を抜かし、喜助に抱きつく紫苑


｢え？ボクのことどうして…｣

｢やっぱり知ってるんじゃない！ひどい…｣


冷たい水の入ったグラスを持つ手がふるふると震えている


｢えっと…どこかでお会いしましたっけ？｣

｢……え？どうして…喜助さん、私のこと忘れちゃったの…？｣


その言葉に紫苑は違和感を感じて喜助から離れた

言われて見れば目の前にいる喜助さんは、死覇装を着ているし、髭も生えてない…この部屋も似てはいるけど見たことのない部屋だし…


｢最低！もう勝手にしてよ！｣


その瞬間、紫苑は反射的に目を瞑った

咄嗟に腕で顔を隠したのに、冷たい液体がうまい具合に頭にかかる


｢もう喜助なんか知らない！｣

｢あ、ちょっと…！｣


彼女はグラスをその辺に転がして、走り去ってしまった


紫苑の思考が数秒停止する


水をかけられたんだと理解した時には、思わず笑みがこぼれた


｢あの、大丈夫っスか？すみません、ちょっと血の気の多い方で…｣

｢大丈夫…です。慣れてるから｣


此処は私の知っている喜助さんの部屋で合っているのだろうか…

そして彼女は…まさか喜助さんの恋人？

でも私はこんな部屋を知らないし、喜助さんが浮気している？…とは思えない

大体さっきまで双極の丘で…