第51章 The DiamondDust Rebellion
「喜助さん、さっきはありがとう」
黒崎くんの手を取れなかったのは、未だ男の人が怖いからだ
話すのは平気
だけど、触れるとなると途端に拒絶反応が起こる
もちろんあれから平気な人も増えたけど、黒崎くんのことはまだよく分からないから、ちょっと申し訳ないことをした
喜助さんはそれを分かってて、握手を邪魔してくれたんだよね
「まさか、トキめいたりしてないでしょうね?」
「へ?」
「名前で呼ばれて嬉しかったっスか?」
「別にそんなこと…」
紫苑の手を握る力が心なしか強くなる
「……ごめん」
紫苑の瞳は、泣きはしないものの、悲しみの色に染まっていた
「私、トキめいたり、名前呼ばれて嬉しいのは、全部全部喜助さんだけだよ。だから安心して…」
「ごめんね…紫苑のこと、誰にも渡したくないんス」
紫苑を引き寄せ抱き締めると、大好きな紫苑の匂いが鼻をくすぐる
ボクを安心させる匂いだ
「他の男に笑顔なんか、見せないで…」
子供みたいに頭をすりよせてすがった
そんなボクを紫苑は優しく撫でてくれた
「お熱いね」
その声に紫苑と喜助はお堂の屋根の上を見上げた
「琴乃!」
「琴乃サン!」
屋根の上でしゃがみ、こちらを見下ろす琴乃
一体いつから居たの…!
琴乃はニコッと笑い、勢いをつけて紫苑の傍に降り立った
「聞きたいことがあって」
琴乃がグッと顔を近づけてくる
反射的に喜助さんと離れた手は、自分を落ち着かせるように、胸元を握りしめていた
「ねぇ、あなたはどうして私を殺したの?」
「……それは」
「足りないの。記憶が…草冠様が私の全てだったのに…あなたと会って、記憶にない記憶が飛び込んできた」
殺したくなかった
生きていて欲しかった
あの時私が、もっと早く駆けつけていれば…
「ねぇ、あなたはまた、私を殺す?」
「そんなこと……!」
─その女を殺せ─
琴乃の脳裏に響いた声
私の全て
私は紫苑という女に刀を抜いていた