第50章 そういうのって、どういうの?
「あ、雪…」
はらりと紫苑の手に落ちては体温で溶けて、より一層寒さが身に染みる
喜助さんの羽織をぎゅっときつく体に巻き付けるように締めた
やっぱり家で待ってれば良かったかな…
寒さに挫けそうになる
ここまで来て引き返すのも、なんだか無駄足みたいで嫌だった
手を擦り会わせ息を吐くと、心なしか暖かさが身に染みる
赤火砲とか出してみるかな…
時刻が24時を回る少し前
クロサキ医院の二階の部屋の明かりが消えた
ブロック塀に背中を預けて下を向いていた紫苑は、それに気づかなかった
カランコロン、と聞きなれた下駄の音がする
その音は一瞬止まってすぐに早い音に変わった
紫苑はハッと音の方を向いた時にはもう、視界が真っ暗になった
喜助さんに抱き締められてるんだと、すぐにわかった
その暖かさに体がブルッと震える
喜助さんの温度がじんわりじんわり、肌を通して私に伝わってくる
そして押し付けられた喜助さんの匂いを肺いっぱいに吸い込んだ
「こんな時間に、何して…」
心配のような、怒りのような、申し訳なさそうな声が落ちる
「たまには私が、迎えに行こうと思って…ね」
喜助さんは強く抱き締めていた腕を弱め、そのあたたかな両手で私の頬を包み込んだ
「こんなに冷たくして…」
頬に伝わるあたたかさに、涙腺が暖まってほんのり潤みそうになる
「手も赤くなっちゃってるっスよ…」
「手袋してくればよかったね」
今度は私の両手を包んで、はぁーっと息を吐いてくれる
「ん、あったかい…」
「…遅くなってごめんね」
心から申し訳なさそうに言われたら、別に怒ってるわけじゃないけど、何も言えない
むしろやっぱりどこか疲れた顔の喜助さんを、癒してあげられたら、なんて考えていた
「迎えにきてくれてありがとう」
喜助さんは自分の着ていた羽織の半分で私を包むと、瞬歩で浦原商店まで戻った
「でも、1人で出歩いたら危ないじゃないスか」
「平気だよ、わざわざ魂魄で行ったし。それに危なくなったら、喜助さんが助けてくれるもん」
「そりゃ…そうっスけど…」
やっぱり疲れてるんだ
いつもより受け答えに元気がない
暖かいお茶を2人で飲んで体をあたためる