第50章 そういうのって、どういうの?
「紫苑殿、まだ休まれないのですか?」
「うん、もうちょっと。キリの良いところまで」
「あまりご無理をなさってはいけまけんぞ」
そう言って鉄裁さんは自分の部屋に入って行った
鉄裁さんが居間から去ったあと、私はため息を吐きながら後ろに倒れるように寝転がった
寝転がった先の視線、少し顎をあげれば静かな室内にカチカチと時を告げる音が響く
「23時か…」
あれから喜助さんからの追加の連絡はない
発信器に意識を集中させると、数時間前と反応のある場所は変わってなかったから、まだ黒崎君の家に居るんだろうけど…
いつもなら22時には布団に入る紫苑
喜助さんが研究に没頭しているときは、先に布団に入ることだってある
でも、なんだか落ち着かない…
いつもは布団に喜助さんが居なくたって、同じ建物内に居るという安心感があった
喜助さんが夜に家を空けることは滅多になかったし…
「喜助さん、早く帰ってこないかな…」
すっかり見る気をなくした取扱説明書が、寂しそうにページを開いている
すると紫苑は思い立ったかのように体を起こし、説明書を片付けた
「寒っ」
勢いで出てきたけど、正直ここまで寒いとは思わなかった
義骸を脱いで目についた喜助さんの羽織を一枚拝借した
寒いと瞬歩も使う気にならず、使って早く着いたとしても待ちぼうけるのが目に見えていたから、目的の場所までのんびり歩くことにした
「こんなことしたら呆れられちゃうかな…」
当て付けのように、恩着せがましくなってしまうかもしれない
今日はたまには、私が迎えに行こう
そう思ってしまって、気づいたら体が浦原商店を離れていた
発信器を頼りに黒崎家についた
クロサキ医院と看板があったからすぐにわかった
二階部分の部屋はカーテンから光が漏れている
時刻は多分、23時半を過ぎた頃だろうか…
私は喜助さんの邪魔をしないように、霊圧を消した
まぁ、喜助さんのことだからすぐにバレちゃうかもしれないけど
立ったり座ったりを繰り返しながら、クロサキ医院から少しだけ離れたところ、でもちゃんと部屋の明かりが見えるところの外灯の下で白い息を吐きながら想い人を待つ