第1章 この子どこかで…
「え?…」
「僕は何度も旦那様に申し入れた!紫苑様と結婚させてほしいって!でも叶わなかった!僕に紫苑様は任せられないって!」
そんなこと…私全然知らなかった…
「だから…だから!」
「だから…殺したの?」
琴乃の思い詰めた声が突き刺さる
「そうだ!あいつらが認めないというから皆殺しにした!邪魔ものはいなくなった!だから…ね、紫苑様。もう何も考えずに僕と…」
「ひどい…」
家を襲ったのがまさか使用人だったなんて
信頼していた使用人だったなんて
その理由が自分だなんて…
「私の大切な家族を殺して…あなたと結婚なんて、できないよっ」
紫苑の叫び声が響く
工藤は紫苑の声に、言葉を失った
「そうですか…」
工藤はゆっくりと立ち上がった
「紫苑様と結婚できないなら…」
嫌な予感がして琴乃は咄嗟に叫んでいた
「紫苑!気をつけて!」
ドスッ─ン‥─
「なん…で…」
琴乃は目の前の事実が受け入れられずに、一瞬目を背ける
そこには右手が白く巨大になり、鋭く尖った触手が3本生えた工藤が、紫苑の体を貫いていた
「僕を見ながら…死んでください」
次の瞬間工藤は腕を引き、紫苑からは大量の血飛沫があがった
「紫苑!!紫苑!!」
かろうじて紫苑を抱き止めた琴乃は、憎しみと涙をためた目で工藤を睨む
「工藤、あなた…!」
「呆気ないものだな。形としてはまぁ死んでしまったが…最後に紫苑様が見たのは僕だ!僕のことだけを考えて死んでいった!紫苑様は僕のものだ!アハハハハ!!」
なにこいつ…
私の知ってる工藤じゃない…
そんなこと言ってる場合じゃない
自分がなんとかしなきゃいけないのに
死神になるのに
なに震えてるのよ!!
「…紫苑はあなたのものになんか、ならない!」
「目障りだ、お前も死ね」
右手だけが虚のように変化していた工藤の体は更に増殖し、次々に姿を変え完全な虚の姿へと変わり果てた
虚になった工藤はしばらく琴乃を見つめたあと、構えをとり一気に間合いをつめた