第1章 この子どこかで…
「紫苑まで死んじゃうよ!」
「でも!助けなきゃ!」
中にはもちろん使用人である琴乃の両親だっている
琴乃だって同じ気持ちなはずなのに…!
その時こちらへ近づいてくる足音が聞こえた
「紫苑…さ…ま」
影から足を引きずりながら声をかけてきたのは、使用人頭の市松だった
「市松さん!一体何があったの?!」
「紫苑様…どうか…気をつけて…彼…は…」
そう言い残して市松は、バタンと音をたてて地面に伏した
「市松さん!やだよ…死なないで!」
「しっかりしてよ!市松さん!」
市松の手を握る2人の目からは、止めどなく涙が溢れている
しかし、市松が目をあけることはなかった
…─
紫苑と琴乃はしばらく霊術院を休み、焼けた家の片付けをしていた
家があったところは瓦礫の山になっていた
「琴乃、ごめんね。あなたの両親まで…」
「何言ってるの?それは紫苑も同じでしょう?」
「でも…私の家に来なければ…」
「それ以上言ったら怒るからね」
紫苑はグッと唇を噛んだ
その時…
ガサガサ
少し離れた茂みから音が聞こえる
「誰!?」
2人は咄嗟に刀に手をかける
「紫苑様っ!よかった!ご無事でしたか!」
「工藤さん!?」
工藤はゆっくりと紫苑たちに近づいてきた
「無事だったのね、工藤…もしかして他にも生きてる人が?」
「よかった…本当によかった…これで…」
「工藤?」
「工藤さん?」
何か様子がおかしいと2人は警戒した
「これで僕と…結婚できますね」
工藤は紫苑と距離をつめて、抱き締めた
「ちょっ、待って…!!」
紫苑は反射的に工藤を突き飛ばしてしまった
「ってぇ…」
「ご、ごめんなさい」
なんで…?
工藤さんが、どうして…っ?
「いいんですよ、紫苑様が僕と結婚してくれれば」
「どうして…いきなり結婚なんて」
「いきなりじゃない!」
急に叫んだ声に2人はビクッと肩を揺らす
「僕は、僕はずっと!紫苑様が好きだった!」