第45章 一緒に行こう
一週間前
現世に来て初めての夜
「喜助さん、私どの部屋使えばいい?」
テッサイのご飯を食べて、お風呂を終えた紫苑が聞いてきた
歯を磨いていたボクはうがいをして、口を拭きながら言った
「何言ってんスか?紫苑はボクの部屋に決まってるじゃないスか」
「へ?」
「ほらほら、もう寝ますよ」
喜助さんに半強制的に連れていかれた部屋には
「……こんな写真いつ撮ったの?」
机の上には無造作に置かれた写真の束
その全てに私が居た
花を眺めている顔、夏祭りで私がアイスを食べている顔、花火を見上げている顔、雪だるまを作る顔、寝顔…
「あ、いや、それは…」
咄嗟に私から写真を取り上げ、後ろ手に隠す喜助さん
「え、何々?だってこの時写真なんか撮ってなかったし……ハッまさか、隠し撮り?」
「いや違うんスよ…」
数秒の見つめ合った沈黙のあと、喜助が観念したように座り込んだ
「それは、ボクの記憶をデータ化して印刷したものです」
「記憶をデータ化?」
「あの時、写真持ってこれなかったから…」
やっぱり私は、100年ちゃんと愛されてた
「喜助さんも寂しかったんだね」
「当たり前じゃないスか」
紫苑は嬉しそうに笑って、畳んであった布団を敷きはじめた
「ちょっと、お手洗いいってきます」
ボクはなんだか感慨深いものが込み上げて、理由もないのに部屋を出た
この部屋に紫苑がいる
ただそれだけなのに
どうしようもなく、ボクの心を、胸を締め付ける
「ふぅ…」
心を落ち着かせて部屋に戻った喜助
100年ぶりに共にする布団
100年ぶりにその身をこの手で抱ける
「寝てる…」
スヤスヤと寝息をたてる紫苑
「そりゃ疲れますよね」
さっきまで心にあった邪な考えを捨て去り、その隣に潜り込んだ
ドクドクと体の底から沸き上がる血液
ずっと不自然に空いていた布団の半分に、今、彼女がいる
手を伸ばせば届く位置に
抱き寄せればその匂いを感じる位置に
喜助はパチパチっと目をあけた
「眠れない…」
100年ぶりだというのに全く、彼女は緊張のカケラもなくぐっすりと眠りに落ちている
喜助は紫苑の頭を優しく撫でた
「お帰り…紫苑」